独リ書ク恋慕

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「意外に賢いな」  肩に刺さった鏡の破片を抜きながら景時が顔を顰める。 「そういう言い方やめろって。アンタ、どんどん兄貴に似ていくな」 「それほどでもない」 「いや褒めてねぇからッ!!」  怒鳴り返してくる景時に折鶴が軽く笑った瞬間だった。  開けっ放しになっている二階の景時の部屋の窓からピアノの音が聞こえてくる。 「…お前、部屋にピアノなんて置いてるのか?」 「置くわけねぇだろ」  古めかしい(わらべ)歌のメロディーが、寂れたアパートに響く。 「…………ヤナッシー、指あったっけ?」  よくピアノが弾けるな、と呟く景時の片手を取って起こしてやりながら折鶴が部屋の窓を見上げた。 「大胆な奴だ。俺がいることにも気が付いているだろうに」 「そこはホラ、俺が術を込めたヤナッシーだから」  自慢気に言う景時に呆れ果てて返す言葉を失った後、折鶴は冷たく呟いた。 「お前はここにいろ。部屋は俺が見に行く」  言うが早いか風景に溶けるように消えていく折鶴に慌てて声をかけようとするが、既に彼は何処にもいなかった。 ◇  呪いとはそもそも何か。 このことについて和人は一度だけ景時に訊いたことがあった。  話のきっかけが何だったかは覚えていない。ただいつものように何をしているでもない、無為な時を過ごしていた日常の合間だったと思う。
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