独リ書ク恋慕

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◇  夕闇に鴉の鳴き声が木霊する。  息を切らしながら汗で全身ぐっしょり濡れて現れた和人に、背を向けて座ったまま景隆が笑った。 「…もうバスはない時間だと思うが?」 「そこら…辺の…ッ人に…車で拾ってもらって……」  必死に何度も息を継ぎながら、あごの下で珠になる汗を手の甲で拭いながら和人は続けた。 「途中…ッ、からは……走った……ッ」 「ほう」  振り向いた景隆の横顔は相変わらず景時によく似ていたが、彼と違って賢そうで…そして何を考えているのか全く読めない表情を浮かべている。 「それで? そうまでしてこんなところまで何をしに来た?」  息を整えながら和人はポケットの中でぐしゃぐしゃになった札の包みを取り出した。 「アンタ、あの馬鹿の兄貴なんだろ?」 「残念ながらな」 「あいつより強いか?」 「どういう意味だ?」 「景時より強いかって訊いてンだ」 「…それを訊いてどうする?」  ようやく収まってきた心臓の鼓動を聞きながら、和人は自分でも驚くほど落ち着いた声で話し始めた。 「あの馬鹿が作ったヤナッシー…いや、人形。多分だけど、洒落にならねぇくらい強ぇと思う。…俺でもわかる」 「まぁ…仮にもうちの後継の資格者だからな。まして、物に霊力を込めるのはうちの得意分野だ。そんじょそこらのユーフォー…なんとかが作るものとはわけが違う。あの馬鹿は人形に何を入れた?」
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