独リ書ク恋慕

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『まだか…ッ! 景時』  頭に響く折鶴の声に全力で怒鳴り返す。 「だぁぁぁぁッ! 俺だって一生懸命探してんだよッ!!」  人の目を誤魔化すためのマイク付きのイヤホンをしていなければ完全に奇人である。  汗だくになりながら近所中を探し回り、結局とぼとぼとアパートに戻ってきてみれば、自室から窓ガラスが砕け散る音が聞こえた。 「はぁ…」  嗚呼…派手にやってる…。きっと部屋の中はぐちゃぐちゃだろう。  割れた二階の部屋の窓から落ちてきた折鶴が地面に片膝をついて荒い息を必死に整える。 「大丈夫か…ッ?!」  折鶴の怪我は思っていたより酷く、和人がいつも使っている台所の包丁やら鋏やら家中の刃物という刃物が刺さっていた。 「…安心しろ。火や水に比べれば刃物は大した傷じゃない。……と、言いたいところだが、流石に傷が増え過ぎたか…」 「うーわぁぁぁぁぁぁすっげぇ血出てるッ! すっげぇ痛そうッ! 見てるだけで痛いッ!!」  目を回して混乱している景時に折鶴が怒鳴る。 「いいからお前はさっさと人形を探せッ!! …俺もあまり長くはもたんぞ」  あのちびっこかった景時が作った呪い人形程度によもや自分が負けるとは思いもしなかったが。  …強くなっている。景時が高校へ行くために山を下りて一年半。  伸びたのは身長だけではなかったらしい。
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