独リ書ク恋慕

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「はいはい。もうユーチューバーとか辞めて普通に働いたら? 怪奇コレクターとか今どき観る人いないでしょ」  ガラッと勢いよく押入れを開けた友人を慌てて引き留める。 「あ、ちょっと待てって」  一応、ひとりかくれんぼはまだ続いているのだ。  押入れに隠れた自分たちを人形が見つけに来てくれなかったのだから、ちゃんと手順を踏んで終わらなければならない。そこまで撮影して初めてユーチューバー『怪奇コレクター』だ。 「えっと…まず、この用意しておいた塩水を口に含んで…次に…」  スマホを操作しながら手順を確認している友人を、一足先に押入から出た友人が振り返った瞬間だった。  突然テレビの画面がフリーズし、横一線のノイズが数本走る。  バラエティ番組のスタジオがおかしな色に変色したまま、画面の中の人は動かない。  テレビを見つめたまま硬直している青年の背後で騒音を立てて窓ガラスが砕け散った。  弾かれたように悲鳴を上げてパニックになりながら友人がその場から走り去る。  押入れから半分身体が出たまま取り残されてしまったユーチューバーが慌てて出ようとした瞬間、ミシっと押入全体が軋むような音がして心臓が飛び出そうになる。  落ち着け…! ようやく画になりそうなものが撮れたんじゃないか。これで再生数10万はいったに違いない。必死にそんなことを考えながら気持ちを落ち着ける。
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