独リ書ク恋慕

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「……あれ…?」  夕焼けに照らされて真っ赤に染まるアパートの庭の紫陽花の中に、一ヵ所だけ青い紫陽花があった。  何かに呼ばれるように景時が青い紫陽花に引き寄せられていく。  …確か、どこかで聞いた気がする。紫陽花は、土の成分で色が変わる…と。  気が付いたら素手で無我夢中で土を掘り返していた。  ほどなくして、錆びたアルミ缶のようなものが出てきた。  開けてみると、中から出てきたのはビー玉に、スーパーのチラシの裏の落書き、昔流行っていたヨーヨーと……………そして。どう見ても今日の昼に見たものとは似ても似つかないほど色落ちして年季の入ったボロボロのヤナッシー人形だった。  しかし、その背中には見覚えのある赤い糸で縫われた傷跡があり、ぐるぐると糸が体に巻き付けられている。持ち上げてみると、その身体の中身は間違いなく綿ではなく米だった。 「………見つけた…」 ◇ 「それで? 俺に人形を作らせるのはいいとして、材料はあるのか?」  見たところ手ぶらのようだが。  景隆に軽い口調で言われて和人が小さく息を飲む。  ここまで来るだけで精いっぱいだった和人は文字通りの手ぶらだった。 「…あいつの髪と爪の残りはここにある」 「人形は?」  あっという間に日が暮れて暗くなっていく室内で、和人は景隆の眼を真っすぐ見つめた。 「俺を使ってくれていい」 「…………」
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