独リ書ク恋慕

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「アンタ前に来た時言ってたろ? 本人に代わって災いを受ける身代わり。アンタが俺を使ってあいつに呪いをかければ、あいつが自分で自分にかけた呪いを上回る。…違うか?」  素人考えだったが、以前ここで聞いた話と合わせて考えれば可能に思えた。  何しろ和人は究極の霊媒体質だ。 「…自分が生贄になるって意味か? 言っておくが、修行していない奴がいきなりやれることじゃない。本当にあの馬鹿の身代わりで死ぬぞ?」 「いいよ別に。今まで生きてたことの方が不思議だったんだ。俺が死んで喜ぶ奴はいても困る奴はいない。そういう人間ってこういうことにはうってつけでしょ」  まるで、呼吸(いき)をするようにごく自然に彼は自分で自分を呪っていた。  長年彼を蝕んできた多くの大人の呪い。彼を覆いつくすその悍ましい膨大な怨念から彼を守るように、彼が道中で連れてきてしまった動物霊やら不成仏霊が必死に彼を包んでいた。  初めて見る光景に景隆が胸中息を飲む。 そうか。だから彼は今まで生きていた。 「…いい覚悟だ。時間がない。始めるぞ」 ◇  処置されて札に包まれたミイラ男かキョンシーにような姿のヤナッシー人形が机の上に転がっていた。  景時の部屋の中は悲惨なほど嵐の通り過ぎた後のようになっており、適当に開いたスペースで折鶴が壁に背を預けて座り込んでいた。
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