独リ書ク恋慕

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「…すまんな。まだ終わったわけではなさそうだが…」  身体が言うことをきかなくなっていた。人形を封印してもヤナッシーの念は残っているらしく、まだ家の中で物が落ちたり割れる音がたまに聞こえてくるが、先程までに比べれば大したレベルではない。 「……こっちこそ、ごめん…」  景時の声がいつになく暗かった。兄の仕事の中で何度となく死んでいる折鶴が、あまり頑丈ではないことを彼は良く知っている。  式とは本来そういうもので、使い捨てられていくもの。だが。 「式神が消えるたびにいちいち落ち込んでいては、いつまで経っても使い手にはなれんぞ。…景時」 「……。お前、『いつ』生まれた?」  その言葉に軽く言葉を失ってから、折鶴が小さく息をつく。  そうだった。…子どもの頃から景時はこういう性格だった。 「半年前だ。冬に少し面倒な仕事があってな。『前回』はそこまでだった」  何度死んでも、式はまたそれまでの記憶と外見を維持してすぐにまた新しい身体で出てくる。だが、人間と違って魂のない彼らは生まれ変わっているわけではなく、術者の力でただ記憶と人格を維持しているに過ぎない。  だから、今までの記憶を回収した術者がそれを引き継がせた新しい彼を作ったとして、それは記憶を持っているだけの別人であり、今ここにいる彼は間違いなくここで死ぬ。こんなことに…何故兄は耐えていられるのか景時には不思議でならない。
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