独リ書ク恋慕

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 ボロボロに引き裂かれた真っ白な折り紙の鶴が、縁側に転がっている。  それを大切そうに拾い上げて懐にしまった後、景隆は小さな部屋に入った。  明かりは何本もの蝋燭。障子に揺れる影を落としながら、景隆の横顔を照らす。 「お前の言うことは正しい。…和人。『呪い』とは本来人の持つ強い願い。誰かの幸せを祈る心だった」  だからこそ、兄の口は呪いであり、兄が家族の幸福を神に祈ることを『祝い』と書くようになった。 「いつの間にか祈りの方向が真逆へと変わり、この言葉の意味も変わってしまったが」  世の中がこいつらのような馬鹿ばかりだったら、きっとそうはならなかっただろう。  ヴードゥー人形も、本来は持ち主を災いから守る幸福のお守りだ。  胸中呟いて眠っている和人の横顔を見る。  傍らで彼を見守っている霊たちにもう心配しなくていいと告げて、一体ずつ祓った。 ◇  部屋の片づけには丸一週間かかった。  夏休みの残りを潰して部屋を片付け、壊れたものをできる限り直して、不可能なものはなけなしのバイト代で買う。 「……で、結局今のお前って兄貴の人形なの?」  例のユーチューバー『怪奇コレクター』はあの動画を公開した後、謎の怪奇現象に悩まされるようになり、連絡は取れたものの部屋を引っ越してしまっていた。  それでも契約が切れる寸前でまだ入れた為、押入れの天袋の中に住んでいたストーカーの地縛霊には無事成仏してもらい、この件は一件落着となった。
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