独リ書ク恋慕

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「何それ。気持ち悪いんだけど」  心底嫌そうな顔で言い返す和人に景時が訊く。 「いやいや、マジで大事なことだから。つか、考えなしにそういうことするか普通」 「考えなしにひとりかくれんぼとかやった奴に言われたくないんだけど? 大体、俺に言われても全然わかんないって…」  ぶつぶつ呟く和人の身体には珍しく浮遊霊一つ見当たらない。  どうやら景時が自分で自分にかけた呪いは、景隆が景時にかけた呪いによって今は完全に相殺されている状態らしい。  その媒介となっているのが和人…ということにはなるのだが、景隆の力が強すぎてヤナッシーの呪いを景時の代わりに全て受けているにもかかわらず和人自身には何の影響もない。どころか生来の霊媒体質が完全に景隆の霊力の依り代として機能しているおかげで他の霊も呪いも怨念も一切合切寄せ付けない状態だ。  それほど強い力を受け入れてなお平然としていられるのは、今まで和人が物心つく頃から受けてきた強い呪いと大量の霊に耐えながら生きてきた証拠だった。  それは、十数年の修行に匹敵するほどの苦行。  その所為なのかはわからなかったが、和人の表情も以前より少し明るくなった気がする。
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