独リ書ク恋慕

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 古い物件だ。そもそも押入れはいつもギシギシいっていたような気がするし、テレビだって今日のような大雨の日は電波が悪い時くらいあるだろう。窓ガラスはきっと老朽化していたのだ。事故物件だと聞いてはいたが、その内容だって住人が亡くなったわけではなく押入れの天袋の中でストーカーが凍死していただけらしいし、住み始めた頃は何か映るかもしれないと思い天袋の隙間を少し開けて監視カメラを設置してずっと撮影していたが、結局何も映らなかった。  今更何が…。そう思いながら押入れから出た瞬間、背後から何かの視線を感じた。  たった今出てきたばかりの押入れの…上部から見つめられているような気配。  振り返って確かめたいが、金縛りにあったように身体が動かず振り返れない。    ふと男が箪笥の方を見ると、隙間から見慣れないボールのような影がはみ出ていた。  冷たい嫌な汗が首筋を通って服の中に流れていく。  食い入るように男が見つめていたその影は、畳から生える見知らぬ男の生首だった。 「ああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」  今度こそ大声を上げて腰を抜かして半開きになった押入れのふすまに男が背中をぶつけて、無意識に先程視線を感じた方向を見上げてしまう。  それは、男の真っすぐ上の方向。  一時間前に風呂場に置いてきたはずの人形が、無垢な笑顔を携えたまま鋭い鋏を片手に天袋の隙間からこちらを見下ろしていた。 「………………みぃつけた」
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