独リ書ク恋慕

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 くだらないいつものやり取りに目を細めながら一人少し離れたところでタバコを吸っていた少年が細く煙を吐く。平和だ。雑然とした薄暗い廃墟の中は居心地が良く、塗装が剥げて剥き出しになったコンクリートに肘をついてガラスのはまっていない窓から明るい外を見る。  その変わった苗字のせいで仲間から通称ツチえもんと呼ばれている景時(かげとき)は、ああ見えて霊感が強く実家が何やら怪しげな一族とかで、オカルト研究会にも唯一オカルト目的で入部してきた。  その結果、すっかり自分たち不良の仲間入りをはたして最近ではタバコまで吸うようになってしまったわけだが。 「あ」  景時(かげとき)の間の抜けた声が背後から聞こえる。  振り返ると同時に見たのは、手にしたスマホを見つめる景時の恐ろしいほど真剣な顔だった。 「カズ…。これ、まじもんだわ……」  和人(かずと)景時(かげとき)と出会ったのは一年近く前。まだ景時が入部する前のことだった。  いつものように放課後に学校の屋上でオカルト部の連中と三人でタバコを吸っていたら、突然屋上にやってきた。何やら屋上に良くない気が溜まっているから見に来たとかで、しかも鬱陶しがって怒鳴っている他の二人を完全に無視してその原因は和人に山ほど憑いている霊だと言い出した。
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