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 スタジアムと称される会場に行き、俺と橋本は後ろの方、半円形の客席がよく見渡せる席に着いた。映画館の中くらいのスクリーン程度の広さはある。  密を避けるため客同士の間隔は空いていたが、ここはアクアガーデンの中で最も活気に溢れていた。遠くのステージでアシカがバランスをとるのを熱心に見守る人に、早々に寝ている人、写真に夢中な人、恋人に夢中な人。とても興味深い。  俺は売店で買った太めのフライドポテトをつまみながら、ショーと客の両方を楽しむ。橋本は相変わらず静かな目で、でも俺が持参したオペラグラスをしっかり握って、プールの方を見つめている。 「結構飛ぶんですね。久し振りに見たけど」  音楽が変わり、プールには2頭のバンドウイルカが登場していた。彼らがジャンプをするたびに、海水で濡れたグレーの体がキラキラ光る。イルカの肌がキラキラするたび、拍手と明るい歓声が湧く。 「さっきの話ですが、俺がここにいないって言ってましたよね」  橋本が前を向いたまま言った。 「実は、リストラされたんです」  唐突な告白だった。昨今の社会情勢の影響だろうかと、気の毒に思って口を開きかけたが、まだ続きがあった。 「恋人にも死なれました」  イルカショーの楽しい空間に深い穴が開いた。並の人間には想像もできない闇。内容の重さとは裏腹にあくまで冷静に語る橋本に、俺はただ「そうでしたか」としか言えなかった。だって、あまりにもドラマみたいだ。  
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