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 ショーの後も、俺と橋本は流れで一緒に水族館を見て回った。カラフルな熱帯魚に癒されたり、細長い触手がからまってしまった可哀想なアカクラゲを眺めたり。途中で遭遇したヒソヒソ話の女性客は、俺がゲイだと察したのか何なのか。ディスタンスがあったので分からない。  チンアナゴの水槽ではずいぶん長居をした。横幅30センチほどの小さな場所で、白いヘビみたいな魚が12、3匹、砂から頭を長ーく伸ばしてゆらゆらしているシュールな光景。イルカと違って何か芸をしてくれる訳でもないが、1匹ずつ微妙に異なる長さやゆらゆら具合が癖になる。  直立するチンアナゴに、俺はマドラーを作ったら売れるんじゃないかと思ったが、橋本は全く違うことを考えていた。 「これ、引っ張ってみたくなりません?」 「何で?」 「砂にキリンが埋まってるように思えてきて」  唐突な発言に吹き出してしまった。縁日のひもくじみたいだとか、ヒドラみたいに全部の頭が同じ体から生えてるんじゃないかとか、俺達はしばらく他愛のない会話を続けた。  ***  順路を無視して自由に回ってから、2人は館内のカフェにやって来た。変な時間のせいかそれほど混んでおらず、窓に面したカウンターの端がちょうど空いていたのでその席にする。  並んで座った途端、ゲイ仲間が集まるバーが連想されて、俺は勝手に動揺した。2人の正面には穏やかな海が横たわっている。西に傾いた日が細波(さざなみ)を黄色く照らしていて、余計なムードを演出しようとしてくる。  俺はミニパフェに乗ったイルカクッキーをつまんで、一思いに嚙み砕いた。  
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