サーフボードでお届け物を

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 ◇◇◇  エミリーが俺ん家の隣に引っ越してきたのは4月。4年生のクラス替えが発表される前日だった。  綺麗なガイジンの女の人の後ろに隠れている女の子に対して、本当にお人形さんみたいで可愛い、と階段の影から見ていた俺ら兄妹は口々に言い合っていた。  「ちょっと、智明。あ、優香も、こっちいらっしゃい」  かーちゃんに呼ばれて、優香の手を引っ張って玄関まで降りる。間近で見るとエミリーの瞳は綺麗な水色をしていた。  「お隣に越してきた高山さん、ほら、挨拶なさい」  俺はなんて言えばいいのか分からなくて、ペコリと頭を下げるだけ下げた。優香もそれに倣う。  「あらあら、はじめまして、智明君に優香ちゃん?可愛いわねぇ」  ガイジンの見た目から飛び出したリュウチョウな日本語に驚き、思わず女の人の顔をまじまじと見つめてしまった。でも、その視線など気にせずに彼女は続ける。  「エミリーも挨拶して。はじめまして、って」  エミリーと呼ばれた少女は、しかし女の人の後ろから出ることはなく、俺らに向けて、小さく呟いた。  「Hello……」  これは流石に智明でも分かる英語だった。  けれど、母親らしき女の人に「はじめまして」と挨拶して、と言われているのに英語で返すその神経は気に食わなかった。  (まだ日本語は勉強中で、あの時は下手くそな日本語を聞かれて笑われるんじゃないか、と思っていたことは後から聞いた)  可愛くてガイジンだから、俺みたいなショミンにはなびかないってか!と相手を睨むと、エミリーも負けじと睨み返してきた。それに怯むことなく、俺は舌を出した。あちらも負けじと舌を出す。二人とも一歩も引かずに睨み合っていると、大人の会話からとんでもない内容が聞こえてきた。  「そうだ、智明、優香。エミリーちゃん、あんたたちと同じ小学校に通うから、困ったことがあったら手伝ってあげなさい。たしか、智明とは同じクラスでしたっけ?高山さん」  「そうなの。迷惑かけるかもしれないけど、この子と仲良くしてあげてね、智明君」  「……お……おう……任せとけ……」  かーちゃんのウムを言わさぬ圧とか綺麗な大人のガイジンさんの前でいいカッコしたい想いとか、色々なものに屈して、俺は直前まで睨み合っていたエミリーの世話を請け負ってしまったのだ。
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