サーフボードでお届け物を

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 ◇◇◇  あの時、父ちゃんに耳打ちされた単語に俺はスットンキョウな声をあげた。  「サンタクロース!?」  「うん、エミリーちゃんはサンタクロースを待ってるんじゃないかな?」  は?父ちゃんは何を言ってるんだ?この暑さでネッチューショーにでもなったのか?  「でも、父ちゃん、サンタが来るのは冬だろ?」  「うん。でもね、エミリーちゃんのサンタは夏に来るのさ」  俺の頭の中は、はてながたくさん埋まった。その顔を見て、父ちゃんは楽しそうに笑った。  「いいかい、智明。地球が丸いことは知っているよね?」  俺は頷く。  「それでね、なんて言ったらいいかなぁ……まぁ簡単にその球体」  父ちゃんの指は、こんな感じね、と地球儀のような丸を空中に描いた。  「……を、真ん中で区切る線みたいなのがあるんだよ」  父ちゃんは丸を空中にもう一度描いて、真ん中を横切るようにピッと線のようなものを引いた。  「赤道って言うんだけど、これに分けられた上と下は北半球と南半球って呼ばれるものなんだ」  ふんふん、上が北で、下が南って地図の右端とかにある記号でもそうだもんな。俺が分かったのを見て、父ちゃんは話を続けた。  「その北半球と南半球では季節がまったく逆なのさ」  「え!?」  「地球はね、傾いているから季節が出来るんだ」  とっても簡単に言ってるからね、今度、ちゃんと教えてあげる、と父ちゃんは付け加えた。  「それでそれで?」  「さっき、真ん中を線で区切ったろ?あれは正しくはこう、うーんと……まぁとりあえず、こう縦になってるんだ」  今度は手で丸を作って、それを90度傾けて、また線を引いた。  「で、この状態で傾けて……」  父ちゃんの腕がくいっと曲がって丸が今度はちょっとだけ傾く。  「で、地球は太陽の周りを回ってるだろ?そうすっと線で区切った右側の方が……?」  「太陽により当たってる!」  父ちゃんは右手で「こっちが太陽ね」と思い出したように、右の空間で小さく手を振った。  「これが今の日本の状態。日本は北半球にあるんだ」  「もしかして、おーすとらりあは……」  「そうだ。南半球にある」  「ってことは、今、向こうは冬で……日本が冬の時は逆だから……あ、だから!」  「よく分かったね。そう、日本が冬の時、オーストラリアは夏。サンタさんが来る日は変わらないけど、向こうは季節が違うのさ。多分、エミリーちゃんはSanta Clausって言ってたんじゃないかな?」  「それだ!スゲー!父ちゃん天才!」  やっぱり父ちゃんはハクシキだ!俺の意味わからない発音とエミリーの出身地だけで真相に辿りついちゃった!  「あれ、でも……」  サンタさんが来る日はどっちにしろ12月24日で、キタハンキューだろうがミナミハンキューだろうが同じじゃないのか……?  その疑問には今まで黙って聞いていたかーちゃんが答えてくれた。  「可愛いわねぇ。エミリーちゃんにとって夏はサンタさんが来る季節なんでしょうね。クリスマス・イヴとか関係なく」  そういうもんなのかな……。  それでも「シャンクローズ来ないね」と言っていたエミリーは、たしかにちょっとどこか寂しそうだった。
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