終わらない夏

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 浴衣姿の彼女は、相変わらず可愛らしかった。白地に紫と桃色の小さな花をあしらい、ぐるっと伸びた蔓の緑をアクセントにしたそれは、彼女の魅力を一層引き立てるため、どうにも僕には喜ばしくも厄介な代物であった。だから何度目かもわからない生返事に、そろそろ彼女が機嫌を損ねるのではないかと、そちらの心配もしなければならないから忙しい。 「ブルーハワイ、美味しそう」  並ぶようにして歩いていた彼女が、ぽつりとつぶやいた。海へ行ったかどうかの話をしたせいだろうか。食べたくなったらしい。  祭りの賑わいはすさまじく、前を行く友人たちを見失いそうなほどの人だかり。それでもマイペースな彼女の体は本能のままに、右手にある露店へと吸い込まれる。 「この先にもかき氷屋はあったから、そこで買えばいいよ」  今だと溢してしまうから、そう付け足すと素直に諦めた彼女に安堵し、進行方向へ戻ろうとするがやはり時すでに遅く。友人たちは僕と彼女がはぐれたことに気づかず、目的の河川敷へと行ってしまったようだ。 「ごめん」  謝罪を繰り返す彼女をなだめながら、僕は手すりに体を預けた。  お目当てのかき氷を買う途中でかかってきた電話によると、友人たちの現在地まで人が途絶えないようなので、合流することは困難と判断。僕たちは人混みを脱出して廃墟になった建物の屋上へと移動した。  彼女はひたすら謝るばかりで、一口も食べていないかき氷が小さくなっていることもお構いなしに、ごめんと繰り返し続ける。 「本当にごめんなさい」  それは寄り道したためにみんなとはぐれたことに対してか、それとも財布を落としてかき氷代を僕が払ったことに対してだろうか。 「全部ひっくるめて、ごめん」  あんなに欲しがっていたかき氷にも手をつけないあたり、相当落ち込んでいるのだろう。申し訳なさそうな彼女の表情に、胸が痛む。 「お祭り、今年来るのは初めてだって言っていたのに、台無しにしちゃって...」  容器から滴がつたい、ぽたりと彼女の浴衣を濡らした。 「早く食べないと溶けるよ」  先端がスプーン状になったストローを氷から引き抜き、空いた方の手にもたせると、やっと彼女は謝るのをやめて、青い氷に口をつけた。表情は浮かないままだが。 「こんな穴場よく見つけたね」  手すりに肘を乗せながら眼下に広がる夏らしい景色を眺めていると、かき氷を頬張る彼女が隣にやって来て、首を傾げる。 「うん、なんというか...保険かけておいた」  答えになっていない気がしたが、彼女は「そうなんだ」とだけ言うとかき氷を食べる作業に戻った。下で人混みの中歩いていたときの僕みたいな生返事だ。こんなにも彼女を夢中にさせるかき氷が少し羨ましい。  ちらりと見える舌の色は露店の明かりがない屋上でも、青く鮮やかに映り、気をそらすように僕はスマホの時刻を確認した。
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