虚ろな星が瞬いて

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 彼女が赴任してきた時は、学校中が大騒ぎになった。「こんなド田舎の高校に、あんな若くて綺麗な人が」と。春の終わり頃には、すっかり「学園のマドンナ」状態だった。  色めき立つ同級生の男子たちを、俺は醒めた目で傍観していた。「どうせ手の届かない高嶺の花だろう」と思いながら。  それに、彼女は確かに美人だったが、教師として優れているかというとそうではなかった。要領は悪く、授業もおざなり。いかにも、若い頃から顔のお陰で色々と大目に見てもらってきたのだろうと思ってしまう感じだった。雑談しているときも、何となく中身のない返事しかせず、目も少し虚ろな感じで、あまり良い印象を持てなかった。  ところが、彼女の方は違ったらしく、ことあるごとに俺に声を掛けてきた。最初は自分の思い違いかと思ったが、友人から「お前だけやけに気に入られている」と言われ、意識するようになってしまった。  そうすると、それまで欠点ばかり目に付いていたのが、だんだん他の皆が言う「良いところ」が見えるようになってくる。「要領は悪いけど愚痴も言わずに頑張っている」「セクハラじじいから嫌味を言われても、にこにこ耐えている」――。今では、視界に入ると目でずっと追うくせに、対面だと緊張して顔を見られなくなってしまった。「憧れ」と呼ぶのははばかられるような気持ちが胸を占めていた。
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