虚ろな星が瞬いて

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「今日も早いね」  背後から聞こえた声に、俺はすぐさま振り向いた。思った通り、そこにいたのは寿賀先生だ。今日もいつものポニーテールに清楚なブラウスといういでたちで、にこにこと俺を見つめている。  毎朝の朝練も、以前は週に2、3日すれば多い方だったが、ある朝声を掛けられて以来、日課になってしまった。本当はこの朝練のせいで日中は眠くて仕方なかったが、彼女と二人きりで言葉を交わせる唯一の時間を失いたくなかったし、失望されたくなかった。 「お早うございます」  そう言ってお辞儀すると、いつもはすぐに校舎の方へ行ってしまうのだが、その日だけは違っていた。立ち止まったまま、世間話を始めたのだ。俺は少し戸惑いながら、当たり障りの無い受け答えをした。そしていきなり、地元の神社で毎年やっている夏祭りの話を持ち出してきた。 「〇〇神社のお祭りって、大きいんだってね」 「そうですね、この辺りではそれなりに、大きい方だと思います」  俺がそう応えると、いつもの笑顔のまま、彼女は言った。 「永野くん、案内してくれる?」  突然の言葉に、一瞬頭がフリーズしてしまった。なんと言ったらいいのか分からず、酸欠の金魚のように口をパクパクさせていると、登校してきたらしい生徒の声が聞こえてきた。その中の一人が、俺たちに気づいて声を上げた。 「寿賀先生、おはようございまーす。……あれ、誠人(まこと)じゃん、お前朝練かよ。この暑いのに、よくやるなあ」  とっさに荷物を担ぎ上げて、クラスメートに駆け寄る。そしてそのまま、寿賀先生を置いて教室へと向かった。  次の日から、朝練はやめてしまった。なぜだか分からないけれど、あの日から何となく、彼女を避けてしまうようになった。あのとき、舞い上がって何も言えないまま、逃げ出してしまったことが恥ずかしかったのかもしれない。  毎日、彼女を見掛けるたびに、頭の一隅で「せっかくのチャンスだ」という声と、もう一隅からは「もう少し様子を見ろ」という声が、代りばんこに聞こえた。  普段でも、できるだけ二人きりにならないように気を付けた。その日以降、挨拶ぐらいはすることがあったけれど、寿賀先生の方から声を掛けてくることは無かった。  一度だけ、俺がクラスの女子と盛り上がっているとき、視線を感じて目をやった先で、こちらをじっと見ていたことがあった。  そうこうしているうちに、あの言葉の真意を確かめられないまま、夏休みを迎えた。
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