虚ろな星が瞬いて

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「なんでこの暑い中、こんな格好で町中を歩き回らないといけないんだよ」  俺が不機嫌に呟くと、母が大仰に溜め息を吐いた。 「なんでって、しょうがないでしょう。町内の持ち回りなんだから。いいじゃない、こんな恰好、一生に一度できるかできないかでしょう」 「一生しなくていいよ、こんな恰好」  そう言いながら、歴史の教科書に載っている平安貴族そっくりの服を身にまとった自分を、鏡でまじまじと眺めまわした。木綿でできた白衣も袴も、既に汗を吸って身体に張り付いてきて気持ち悪い。ごわごわの麻の上着みたいなものも、何年も洗わずに使いまわされているのだろう、何だか変な臭いがする。  母の口車に乗って、のこのこ母の帰省に着いてきてしまったのがいけなかった。  母の地元では毎年、夏に大きな祭りが催される。何百年も続く歴史ある祭りで地域の観光の目玉にもなっているらしいが、地元の若者が都会に出て行ってしまい、年々人手が足りなくなって、今では近隣地域の学生バイト頼りになっているという。そのメインイベントである仮装行列に、平安貴族のコスプレをして参加することになったのだ。例年は、母方の本家の従兄が参加していたが、今年は仕事の都合が合わなくて参加できない、とのことだった。 (こんな恰好、学校の知り合いに見られたら、もう学校に行けなくなるな)  ふと、寿賀先生の顔が脳裏をかすめた。  ふてくされたまま、母とともに集合場所へと向かう。そこで待ち構えていた大人たちと挨拶を交わし、簡単な説明を受けた後、持ち場についた。  杖のような物を持たされ、日差しの下、指示された場所でぼうっと待っていると、少し離れた位置に、巫女装束の女の人がやってきた。長い薄茶色の髪が、寿賀先生に似ている。確か、行列の中には、神楽を舞いながら歩く巫女役もいたはずだ。  巫女さん役って、やっぱり美人がやるのかな、などと好奇心が頭をもたげ、ちらりと盗み見た。そしてその顔を目にした瞬間、心臓がひっくり返りそうになった。  巫女装束に身を包んでいたのは、寿賀先生だった。その姿のあまりの神々しさに、俺は気を失いそうになった。  * * *  俺のグループと寿賀先生のグループは、休憩のタイミングも場所も違っていて、近づくことすらできなかった。行列が進んでいる間中、俺は先生の方ばかり気になっていた。ここでなら、何の気負いもしがらみもなく、先生と向き合える、そんな予感がしていた。  行列が町をひと回りして神社に着くと、お菓子とジュースのセットを配られて解散になった。境内の奥の本殿では、町内の人たちだけの飲み会が催されるというが、寿賀先生がそれに出る保証はない。俺は人ごみを掻き分けながら、先生を探した。  屋台が立ち並ぶ参道にも、境内のどこにも、彼女の姿は無かった。もしかして、自分がいるのに気づいて、彼女も自分を探してくれているのではないかと期待していたが、そんな都合の良い話、あるわけがないのだ。  諦めて母の実家へ帰り、私服に着替え、宴会場へ戻った。諦め悪く、母たちと分かれ神社の境内を探したが、やはり先生の姿はどこにも無かった。どうして、自分がこんなに彼女を探しているのか、もう答えは出ていた。  奥の宴会場に戻ろうとしたその時、背後から声がした。 「永野くん?」  聞き覚えのある声に、最初は幻聴かと思った。しかし、もう一度自分を呼ぶ声が聞こえ、慌てて振り向いた。 「寿賀先生」
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