虚ろな星が瞬いて

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 ――何かをしたい者は手段を見つけ、何もしたくない者は言い訳を見つける――  そんな諺がどこかの国にあったな、と思いながら、俺は熱くなった水道の蛇口の栓をひねった。流れ出る生ぬるい水が徐々に冷たくなって、火照った頭を冷やしていくのが心地よかった。  水を止めて顔を上げると、けたたましいセミの声が戻ってくる。早朝の校庭に人気は無く、まるで自分の独擅場に思えた。 「お疲れ様、永野くん。今日も早いね」  ぎょっとして振り向くと、クラスの担任の教師が立っていた。この春うちの高校に赴任した新卒の先生で、名前は寿賀奈央さんという。俺はどぎまぎしながら彼女の顔を見た。  色白の肌に、薄茶色のぱっちりした目が印象的な美人だ。ポニーテルにした腰まである薄茶色の髪が日に透けて、金茶色に輝いている。うっすらにじんだ汗で髪が顔の周りに張り付いているのが、何だかやけに色っぽかった。思わず目を伏せながら、俺は応えた。 「お早うございます」  先生がにっこり笑って言った。 「毎朝自主練してて偉いね」 「いえ、そんな……」  そこまで言いかけた時、背後から声が聞こえた。別のクラスの担任の声だった。寿賀先生は「それじゃ、またね」とだけ言うと、その男性教諭の方へ歩いていった。
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