第1章

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第1章

2019年8月15日    今日は、お盆の終わりの日に、村の山の頂上にある神社主催で開催される、祭りの日だった。  山の麓から、天まで届いてしまうのではないかと思うほどの、老若男女の明るく活気付いた声が聞こえてくる。  俺と隣にいる子は、階段を下りながら馬鹿みたいな会話を繰り広げていた。 「さて、今年もレイと祭りに参加しているわけだが......くっ、今年も......!」 「まあ、幼馴染みみたいな......——君と僕のあばんちゅーる? を今年も楽しもう?」 「おまえ、それアバンチュールの意味分かって言ってんの?」 「僕が知るわけないじゃん。横文字を知ってるわけないじゃん!」  開き直るレイに俺は呆れ返り、溜め息を吐く。レイは、江戸時代に住う人間か! と言いたくなる程、外国や最近の事に対する知識がない。  色々事情がある事も知っているため、この話題を無駄に長引かせたりはしない。 「はあ、そうだったな。......まあ、良い。恋人と来たいな! とか一瞬思ったけど、夏祭りはお前と参加するのが1番しっくりくる」 「それは嬉しいなあ......てことで、よし! 今年も夏祭りを盛大に楽しもうね!」 「そうだな!」   「祭りといえばやっぱり、型抜きでしょうよ!」 「君、本当に地味なの好きだよね」 「地味っていうの止めろよ! これでも神経をフルで使う、めちゃくちゃ難しいゲームなんだぞ!」 「......地味なのは変わりな——こほん! 君、それ苦手だったよね。僕は後ろで君の型抜きの顛末を見守っているよ」 「そうか、せいぜい見守っていろ。俺は昨年から進化している! 進化した天才的な型抜きに驚くがいい!」  俺は爪楊枝を右手に掴み、ウサギの型が描かれたピンク色の板に突き刺す。1刺し目は当然成功だ。この調子で行けば良い。この調子で行けば。続けて2刺し目、3刺し目と——。  パキッ。 「......スッー」 「で、進化した結果がこれなの?」 「おかしい......何故だ? 何故うまく行かないんだ! おじさんもう1回!」 「あいよ!」  俺は店の人に100円を払い、新しい板を貰う。次こそはと意気込んだが、それも失敗に終わった。ムキになって100円、200円と財布からお金がシャボン玉のように弾けて消えていく。 「もう......やめときなよ。お金が」 「次は絶対できる。そんな気がするんだ。大丈夫だ。見ていろ。次は絶対——」 「......完全に博打依存症の思考だよ、それ」  結局1回も成功しなかった。レイからは冷ややかな視線を浴びせられたが、自分でも後悔しているが故に、何も言い返せなかった。
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