第1章

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 その後、りんご飴やたこ焼きをレイが美味しそうに頬張り、俺はくじ屋で手持ち花火のセットを引き当てた。  くじ屋では、どうせ良いものは当たるまいとレイは呆れていたが、驚く事に花火セットは3等である。 「今なら詫びたら許してやらなくもないぞ?」 「くっ、死んで詫びるしか」 「なにそれ、面白いジョークだな」 「じょーく? まあ、冗談だけど。ごめんごめん」  いつのまにか、明るさが残っていた空も、暗くなっていて、冪冪たる雲が覆う中、月と星がなんとか顔を覗かせようと、風で雲をずらせるのに必死になっていた。 「ごめん、ちょっとトイレに」 「あっ、行ってらっしゃい。僕は此処で待ってるね」  ハンカチで手を拭きながら、トイレの外に出ると、急に誰かから声を掛けられた。 「あれ? 望? お前も祭りにきてたのか!」 「! 拓也! それに咲さんも! 何? 2人で仲良くお祭り?」  2人は双子で、高校に入って、初めて出来た親友だった。俺の事を全て知っても尚、隣にいてくれた。 「親が五月蝿いんだ。兄妹2人で祭りに行けって。私はこんな馬鹿とは行きたくないのに!」 「馬鹿って言うなよ! ......そんなことより望は1人か?」 「うーん、そうだね。——1人だよ」 「じゃあ今から一緒に......っとその前にその右手に持ってる花火を......!」 「これはダメだよ? 絶対に譲らないからな」 「まあ良いじゃんか、1個くら——」 「望が困ってるだろボケ!」 「ごはっ!!」  咲の飛び膝蹴りが拓也に直撃し、近くの木に向けて、文字通り吹っ飛んでいく。木と拓也が衝突した事によって、強烈な破裂音が祭り会場に響き渡る。 「良い蹴りだったぜ、咲......ガクッ」 「拓也がまたのぼせたぞー」  周囲の人々からの視線を感じる。しかし、俺は特に気にすることはなく、拓也の元へと駆け寄っていく。咲も同じように拓也の元へと近づいた。 「すまんな、望。こいつを医務場所に連れて行く。だから、此処でお別れだ」 「え? 1人で大丈夫?」 「気にするな。いつも言っているが慣れている」 「いつも言ってるけど、慣れて良いのかな? それは」 「まあ大丈夫だろ。じゃあ、次は学校で会おう」  咲は気絶した拓也のシャツの天巾を掴み、医務場所まで引きずっていった。 「おかえりー。何かあったの?」 「いや、ちょっと学校の......"親友"に会ってさ。それよりも! もうすぐ花火の時間だから、いつもの場所に行こうぜ!」  俺はレイの方を見ずに手を掴もうとした。そのせいか、俺は手を掴み損ねてしまう。今度はその手をしっかりと握ることができるように、レイの方を見ながら、右手を力強く掴んだ。  レイの手は、夏の夜に似合わず、とても冷たくて、まるで熱い砂漠に中に佇むオアシスのようだった。 「っ......なんで手を握れ——」  微かに聞こえるその言葉の意味を、俺は理解できぬまま、レイの手を強く握り続け、花火が綺麗に見える穴場の場所へと走りだす。
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