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その後、りんご飴やたこ焼きをレイが美味しそうに頬張り、俺はくじ屋で手持ち花火のセットを引き当てた。
くじ屋では、どうせ良いものは当たるまいとレイは呆れていたが、驚く事に花火セットは3等である。
「今なら詫びたら許してやらなくもないぞ?」
「くっ、死んで詫びるしか」
「なにそれ、面白いジョークだな」
「じょーく? まあ、冗談だけど。ごめんごめん」
いつのまにか、明るさが残っていた空も、暗くなっていて、冪冪たる雲が覆う中、月と星がなんとか顔を覗かせようと、風で雲をずらせるのに必死になっていた。
「ごめん、ちょっとトイレに」
「あっ、行ってらっしゃい。僕は此処で待ってるね」
ハンカチで手を拭きながら、トイレの外に出ると、急に誰かから声を掛けられた。
「あれ? 望? お前も祭りにきてたのか!」
「! 拓也! それに咲さんも! 何? 2人で仲良くお祭り?」
2人は双子で、高校に入って、初めて出来た親友だった。俺の事を全て知っても尚、隣にいてくれた。
「親が五月蝿いんだ。兄妹2人で祭りに行けって。私はこんな馬鹿とは行きたくないのに!」
「馬鹿って言うなよ! ......そんなことより望は1人か?」
「うーん、そうだね。——1人だよ」
「じゃあ今から一緒に......っとその前にその右手に持ってる花火を......!」
「これはダメだよ? 絶対に譲らないからな」
「まあ良いじゃんか、1個くら——」
「望が困ってるだろボケ!」
「ごはっ!!」
咲の飛び膝蹴りが拓也に直撃し、近くの木に向けて、文字通り吹っ飛んでいく。木と拓也が衝突した事によって、強烈な破裂音が祭り会場に響き渡る。
「良い蹴りだったぜ、咲......ガクッ」
「拓也がまたのぼせたぞー」
周囲の人々からの視線を感じる。しかし、俺は特に気にすることはなく、拓也の元へと駆け寄っていく。咲も同じように拓也の元へと近づいた。
「すまんな、望。こいつを医務場所に連れて行く。だから、此処でお別れだ」
「え? 1人で大丈夫?」
「気にするな。いつも言っているが慣れている」
「いつも言ってるけど、慣れて良いのかな? それは」
「まあ大丈夫だろ。じゃあ、次は学校で会おう」
咲は気絶した拓也のシャツの天巾を掴み、医務場所まで引きずっていった。
「おかえりー。何かあったの?」
「いや、ちょっと学校の......"親友"に会ってさ。それよりも! もうすぐ花火の時間だから、いつもの場所に行こうぜ!」
俺はレイの方を見ずに手を掴もうとした。そのせいか、俺は手を掴み損ねてしまう。今度はその手をしっかりと握ることができるように、レイの方を見ながら、右手を力強く掴んだ。
レイの手は、夏の夜に似合わず、とても冷たくて、まるで熱い砂漠に中に佇むオアシスのようだった。
「っ......なんで手を握れ——」
微かに聞こえるその言葉の意味を、俺は理解できぬまま、レイの手を強く握り続け、花火が綺麗に見える穴場の場所へと走りだす。
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