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第2章
2020年8月16日
このままレイと会えなくなってしまうのはダメだと思うのは当然のことだった。しかし、祭りは中止。その事実には抗うことなんて出来なかった。
レイは"あの日"ではなく、"あの日の祭り"が大事なんだ。お盆の終わりの日に開催されるあの祭りが。
俺は自分の部屋の机に肘を置き、頭を抱え続けた。悪いのは自分だと分かっている。だから、こんな結末も仕方ないのかもしれない。
暗示をかけ、反芻し、納得させる。簡単なことなのに、永遠にできる気がしない。外は、普段の日常と変わりなく動いているのに、自分の心だけは、日常から外れて立ち止まろうとしていた。
『僕は——ここに——』
「っ! レイ!」
それは俺を日常に連れ戻そうとする声だった。その声は何処から聞こえてくるのか。分からないが、行く場所は決まっている。
急いで服を着替えて、部屋の扉を勢い良く開ける。
「望!? 何処行くの!?」
「ごめん、母さん! すぐ戻るから!」
俺は、声に惹かれるように、声に吸い寄せられるように、声を追いかけるように、家を飛び出した。月と星が行く場所を示すように地面を照らしている。
「きっといるはずなんだ。行きもしないで、勝手に会えないって決めつけてた。レイの言う通り、俺は正真正銘の馬鹿だよ」
地面を蹴る。体は前に進む。いつもよりも速く前へ。
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