あの少女は

9/11

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 ここだ。このあたりだ。知っている。このあたりだった。そうだ。  でもこのあたりに海はない。それもよく知っている。だって家からもそんなに離れたところじゃない。ずっとあの家に住んでいるんだから、それはよく知っている。  急に不安になってあたりを見回す、立ち止まらずに。そのせいで歩いていた人にぶつかってしまった。 「あら、どうしたの」  優しそうな人でよかった。 「ごめんなさい。よそ見してて」 「大丈夫よ。それより、どうしたの? まだ学校ある時間じゃない?」 「そうなんですけど、それよりも海、海があって」  その人は納得したような顔をした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加