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ここだ。このあたりだ。知っている。このあたりだった。そうだ。
でもこのあたりに海はない。それもよく知っている。だって家からもそんなに離れたところじゃない。ずっとあの家に住んでいるんだから、それはよく知っている。
急に不安になってあたりを見回す、立ち止まらずに。そのせいで歩いていた人にぶつかってしまった。
「あら、どうしたの」
優しそうな人でよかった。
「ごめんなさい。よそ見してて」
「大丈夫よ。それより、どうしたの? まだ学校ある時間じゃない?」
「そうなんですけど、それよりも海、海があって」
その人は納得したような顔をした。
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