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「……ねえ、おねえちゃん。ハナビの駅、まだ?」 ふと、いくが声を上げた。わたしの膝をぺたぺた触りながら、訴えるように言ってくる。電車に乗り込んでからまだ2分くらいしか経っていないのだけれど、今は脚ばたばたもしておらず、どうやら早くも飽きてしまった様子だ。 「もう着くよ。降りるのは、さっき電車に乗った駅の、すぐ隣の駅だから」 「ま、だ、な、の?」 いくは、シートのクッションをばふばふ言わせ、唇を尖らせる。 「まーだ。あとちょっとだから」わたしはいくの頭を撫でて、「ほらほら、外見て。楽しいよ」と促した。 いくは、「うー」と言いながら、ぺたっと窓に張りつく。同い年のまわりのコに比べると、いくはいくらか子どもっぽくて、いくらかバカっぽくて、いくらか元気が良い。 そして、他の誰よりやさしくて、純粋な気持ちを持っていると思う。わたしは、そんないくの事が大好きだったし、いくと話していると、いつも幸せな気持ちになった。 「……ぼくんち、どこ?」 「ここからだと、もう見えないね」 「ちゃんと、おうち帰れる? ……ママのところ、戻れる?」 「…………」 ……まるで不意打ちのように、そんな事を言ってくるので。わたしは一瞬、言葉をつまらせてしまった。 返事を出来ずにいると、いくは急に不安になったのか、窓から顔を離し、「おねえちゃん?」となおも訊いてくる。 そこで、ようやく――わたしの意識は戻ってきて、いくの小さな背中を、包むようにさすってあげた。 「……大丈夫。いくは、ちゃんとママのところへ帰れるよ」
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