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・4
ショッピングモールの催し物広場には、すでにいくと同じくらいの年代の子どもたちが、たくさん集まっていた。中には女の子もいるようだけれど、やはり男の子の方が圧倒的に多い。
みんな、今か今かとステージに釘づけになっていて――当のいくはと言うと、わくわくし、そわそわし、目をきらきらさせながら、「うー」とか「あー」とか、声にならない声を発していた。
「……ね、おねえちゃん。ハイパーレンジャー、来る? もう、来る?」
「うん、来るよ。さっき、ドクターYに連絡しておいたからね」
さらりと言う。いくは、「きゃー!」と黄色い声を出して、わたしに飛びついてきた。……あんたは女子か、と思わずツッこみを入れたくなるが、ぐっとこらえて、かわりに、ぎゅー、としてあげた。
しばらくすると、ステージの上にきらきらの衣装を身にまとった女の人が現れた。
……きれいな人。いくが「あの人も、ドクターYの助手? おねえちゃんの知り合い?」と訊いてくるので、わたしは「そうだよ」と応えた。
――と。
『よいこのみんなー! こーんにーちはーっ!』
「こんにちはーー!」
……思わず、わあ、と声を出しかける。会場の熱が、一気に上がった気がした。
『うーん! みんな、元気いっぱいだね!
……それじゃあ、もーっと大きな声で、ハイパーレンジャーを呼んでみようか!
みんな、いくよー? せーのっ!』
「ハイパーレンジャーーっ!」
その瞬間、「とうっ!」というかけ声と共に、なんとなく見覚えのあるカラフルなレンジャーたちが、ステージ横から次々と顔を出した。
それぞれ、側転やバク宙など様々な技を披露してから、華麗に着地を決める。
それと同時に辺りに響く歓声と、流れ出す大音量の彼らのテーマソングらしきもの。わたしはたまらず耳を塞ぎ、椅子に腰を下ろした。いくは想像以上に興奮していて、それこそその場で暴れ出しそうな雰囲気だったので、慌てて後ろから動かないように抱きしめる。
「……おねーちゃん! 見て! ハイパーレンジャーだよ! 全員いるの!」
「うん。いく、うれしい?」
「うれしい! すごい! かっこいい!」
わたしは、両手の力を一層強めた。いくはショーを見ている間、ずっとわたしにいろいろな説明をしてくれて(何レンジャーの必殺技がどうとか、悪の軍団がどうとか)、本当に楽しそうに笑っていた。
それを見て、わたしも本当にうれしくて。よく知りもしないレンジャーたちをいくと一緒になって応援し、悪の軍団を倒した時には、一緒になって喜んだ。
何も考えず。なんの不安も抱かず。何もかもを忘れて……でも、それでも終わりの時間はやってくる。
いつの間にか、ヒーローたちは姿を消し、辺りは普通のショッピングモールに戻っていた。
「……おねえちゃん、ただいま」
顔をあげると、トイレから戻ってきたいくが、にこにこしながら立っていた。わたしは意味もなく、いくの頬に、そっと触れる。
ヒーローショーが終わり、わたしたちはしばらくモールの中を散策していたのだけれど、時間が経つのはあっと言う間で、時刻はすでに6時を回っている。
そろそろ、花火大会の始まる時間だ。
「……いく、疲れてない?」
「全然! ……ね、はやく、ハナビ見に行こうよ!」
いくは急かすように言って、真っ白い腕を伸ばしてくる。
わたしはその手をしっかりと握って、「よしっ、行こう!」と、大げさに笑ってみせた。
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