【 第一話: エピソードI 】

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【 第一話: エピソードI 】

 大好きなお兄ちゃんが、東京へ引っ越して行ったのは3月の下旬。  それから、4ヶ月ほどお兄ちゃんには一度も会えていない。  会いたくなかった訳じゃない。  毎週でも会いに行きたかった……。  今まで10年以上、いつも一緒に隣にいたお兄ちゃん……。  私がいじめられた時には、いつもお兄ちゃんが守ってくれた。  お兄ちゃんは、私の思いに気付いてないと思うけど、  私の小さな胸は、いつもドキドキしていたんだよ……。  お兄ちゃんのことを考えると、涙が止まらなくなる。  私はずっと、お兄ちゃんのことが大好きだったんだ……。 『トゥルルルルルル……』  その始まりは、お兄ちゃんからの一本の電話がきっかけだった。  私のスマホに表示される『お兄ちゃん♪』の文字。 (あっ、お兄ちゃんからだ……)  ドキドキする気持ちを抑えて、右手を胸に当てながら、一度咳払いをしてから電話に出る。 「もしもし、『若菜(わかな)』です」 『あっ、若菜。俺、『龍之介(りゅうのすけ)』兄ちゃんだけど、久しぶり』  お兄ちゃんのやさしい声。久しぶりに聞く。 「あっ、お兄ちゃん。ひ、久しぶりだね……」 『あのさ、若菜にちょっと頼み事があるんだけど、ちょっと時間いいかな?』 「えっ? 頼み事?」 『ああ、実はさ、……』  東京へ行ったお兄ちゃんと直接電話で話すのは、4ヶ月ぶり。  私は、電話に出る前から、お兄ちゃんからの電話に、胸がドキドキしていた。  お兄ちゃんは、180cm以上ととても背が高く、私の目から見るとやさしい顔をしたイケメンタイプで、スポーツも出来て、おまけに頭もすごくいい、私の理想そのものなんだ。  自分の頭の中で、お兄ちゃんのことをかなり美化しているかもしれないけれど、こんな素敵な男性が兄であることがとても誇らしいし、隣同士で歩くと、皆(うらや)ましそうに私たちを見る。  そんな自慢のお兄ちゃんだ。  そして、お兄ちゃんは東京のとある大学の医学部に合格して、この4月から東京に一人引っ越していたんだ……。
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