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「これ、投げるとハナが持って来るんだよ」
「へえ、頭が良いんだな。僕が投げても持ってくるかな」
「やってみたらいいよ」
紀佳ちゃんは頬をあげて笑ってから僕にボールを渡してくれた。僕はあまり力を入れないでボールを近くに投げる。ハナは弾んだように駆けて行ってボールを口にくわえた。そして、くるりと方向転換をして戻って来た。ヤバい、犬って可愛いな。
「僕の家も犬を飼って貰おうかな。散歩すれば運動にもなるし」
「ああ、肇くんは美術部だったよね。あそこあまり活動してないでしょ。同じ年の子は運動部が多いのにどうして?肇くん、運動神経は良いじゃない。私は運動音痴だから帰宅部だけど」
「本を読む時間が欲しかったんだ。土曜日とか日曜日は必ず図書館に行くほど本が好きなんだよ」
僕はそう言ってもう一度ボールを投げた。ハナが「ワン」と言って走って行った。
楽しく遊んでいたら六時になっていた。夕刻の音楽が町中に流れる。僕は「女の子は早く帰った方がいいよ」と言った。
「うん、肇くんは明日は部活?」
「まだ分からない。明日もハナの散歩するの?」
「うん、毎日ここに来てるの。よかったらまた遊ぼうよ」
紀佳ちゃんはそう言ってルーシーに「ねっ」と同意を求めた。ルーシーは朗らかな顔をして頷いた。
公園を出て来た道を引き返していると前から治樹くんが歩いて来た。透明なスーパーの袋を持っている。ここから少し歩いたところの激安スーパーのレジ袋だ。夕飯の材料だろうか。それにしては買う時間が遅いな。
「あれ、マイ・ネーム・イズ・ハジメマシタは女子と遊んでいたのか。女子と遊ぶのはじめましただな」
「ふざけんなよ。紀佳ちゃんとルーシーに悪いじゃないか」
僕はそう言って治樹くんを睨みつける。
「なんだよ、本当のこと言っただけじゃないか」
治樹くんはニヤニヤしながら横を通り過ぎた。
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