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僕の名前は真下肇だ。外国の人に自己紹介をするとき、ハジメマシタになる。小学校のときは皆んな気が付かなかったが、中学で英語の授業がはじまったとき同級生に大笑いされた。僕は真っ赤になるが本名なんだからしょうがない。
「マイネーム・イズ・ハジメマシタ」
「なにを始めたんだよ」
クラスでも目立っている男子が僕を揶揄う。バスケ部の治樹くんだ。治樹くんは背が高くて小学校時代から人気がある。治樹くんが笑うのは分かるが、大人しくて可愛い紀佳ちゃんまで可笑しそうに口に手をあてている。
「こら、こら、静かにしなさい。真下くんはきちんと自己紹介をしただけなんですよ。真下くん、続けて」
僕は自分の趣味を英語で言う。
「アイ・ライク・リーディング」
治樹くんは注意されたから口を噤んだが目は笑ったままだ。人の名前くらいで盛り上がらなくてもいいのに。
僕は席に腰かけて英語の教師を見る。教師は眼鏡に手を添えて「真下くんの趣味は読書なんですね」と言った。
ここは千葉県にある公立中学校の教室だ。今は二時間目の英語の授業中、教師は男で昔のイギリスにあったバンドのコピーをやっているらしい。だからたまに英語の歌を歌わされることがある。それはいいんだがいちいち自己紹介をさせられるのは辟易する。自己紹介なんか一度したらそれでいいんじゃないかと思う。
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