辛杉家の憂鬱 シン編

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 ばっさりと切り捨てて、また母は歩き出してしまう。歩調は弱めてくれていた。父とは違う、こういう優しさが俺は好きだ。  意気揚々家に帰って…… 「ただい……うわあ!」  靴を脱いで床に上がった途端ずっこけた。なぜって? 外ではシークレットブーツを履いて身長を十センチ以上かさ増ししているのだ。脱いだ瞬間その分縮むので、体の寸法に感覚が追いつかず転倒する。よくあることだ。母親にやれやれだわと呆れられた。 「なんのこれしき……」 「お兄またこけたの?」  降ってきた軽快な女子の声に顔を上げれば、おかしそうに笑う妹のララがいる。 「床が俺を呼んでいたからダイブして応えたまでだ」 「ずいぶん熱烈だね」 「今日の夕飯は俺が作るからな。兄貴め、首を洗って待っているがいい。今日こそビーフカレーの素晴らしさをわからせてやる」  拳を握って宣言すると、ララはおおと喜んだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加