『崖の上より捧ぐ花』 現代語訳・吉井パルス 原作・藤村操

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『崖の上より捧ぐ花』 現代語訳・吉井パルス 原作・藤村操

 今日まで生きられたことなんて世界の恵みよ  想いがすべての祖先の名のもとに胸に染み入る  それらの事柄へ約百五十センチの小さな存在で感謝を発すると決めた  しかしながらなんと働きの悪い我が頭脳か  己だけでは思い届かずなんらかの仮説へ助けを求めようとも  そこにはなんの自我もみつからず胸が冷たく傷んだ  ヒトの俺と云うモノ  何にでもナニモノかにもなれると云うのに  今ですらこうも心の飾り方ひとつも満足にできない己の力なさに  絶望した  ずっと悶える日々を送り  なにもできず  なぐさめてくれる世間様にとてつもなく申し訳ない気持ちになった  もう泣けない  もう立てない  もうだめだ  本当の絶望の果てにはナルシスティックな陶酔もなく  ただ  もう逝くことを決めた  そんな秋の風のような胸のまま崖の上に立つ  せめて花を手にしていた  心が奇妙なほどに凪いでいる  俺が逝きます  ありがとうすべてよ  此岸よ彼岸よ  三千世界よ  捧げるこの魂を  どうぞ哀れに花とともに受け取ってください。  こんな俺でした  みなさま、ありがとうございました。  草々
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