第1章 出会い

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第1章 出会い

それは桜舞い散る春先のことだ。 俺が入学する心誠学園、男子校も、新入生を招くように、部活動の勧誘をあちこちでしている。 俺は校門まで右腕の田中に送ってもらい、車を降りた。 途端、周囲の奴等が俺に注目して、話を止める。 俺は金髪に、制服ではなく赤い私服姿だった。 親父である、千夜組の組長が勝手に決めた通学先だ。 まともな格好で通ってやる気は無い。 「坊ちゃん、自分は、これで」 田中は俺が産まれた頃から居たヤクザだ。 始めは、坊ちゃんって言うのをよせと言っていたが、止めないので、もう慣れた。 「ああ、行ってくるぜ」 俺は、そう言って車のドアを閉める。 そして後ろのドアを開け、後部座席からカバンを手に取った。 田中は、俺が車から離れると、車内から俺に会釈し、車を発進させ、見えなくなった。 「ちょっと、あの子、どうして制服着てないのかしら?」 「何だか怖いわ。うちの子と同じクラスになったらどうしましょう…」 「おい、あれでも新入生かよ」 「校則違反しまくりじゃねーか。生意気そうだなあ」 新入生の保護者や上級生らが、俺を見ながらヒソヒソ話をする。 俺がギロリと睨みつけると、皆、一斉に目を逸らした。 俺は何も入っていないカバンを肩から担ぎ、学園の敷地内を歩き出した。 部活動の勧誘をしてる上級生らは、俺の私服姿に驚愕したのか、ビラを配ってこない。 元々、部活なんか入る気無いから、歩き易くて丁度良い。 料理部の前を素通りする時だった。 「はい、どうぞ」 低音の響きが心地良い声と共に、俺の目の前に、ビラが出された。 俺がギロリと睨みつけると、ビラを配った男の上級生が、俺の目を真っ直ぐに見ながら、ニコリと笑った。 …変な奴。 同性の俺から見ても、カッコ良く、女にモテそうだが、意外な反応に俺は珍しさを感じていた。 上級生はビラを引く事もせずに俺に言った。 「料理は嫌いか?」 嫌いではない。 どちらかと言えば、好きな方だ。 親父に秘密で田中たち千夜組の組員たちにメシを作ってやる事も結構ある。 「別に」 「なら見学にだけでも来い」 上級生は、そう言って、ビラを俺に突き出したままだ。 俺は珍しく、そのビラを受け取る気になった。 入学式なんか出る気がしなかった俺はタバコを吸いに体育館裏に向かった。 すると、そこには先客が居た。 メガネを掛けた、俺と同じ新入生らしき男子が、数人の上級生らに絡まれていた。 「ですので、何度申しましても、貴方方に差し上げるお金は在りません」 「そんな事言って、本当は持ってるんだろう?…って、何だ、お前」 上級生の1人が、俺を見て言った。 めんどくせー場面に出くわしたな。 「誰でもいいだろ。タバコ吸うからカツアゲなら、お静かにな」 「はあ!?お前も、このメガネと同じ、新入生だろ?タバコを吸うって何だよ?大体、制服はどうした?!」 「うるせーな。静かにしろって言ってんだよ」 「生意気な奴だな!おい、コイツから先に締めるぞ!」 上級生らは、そう言うと、メガネの新入生から、俺にターゲットを変えたらしい。 ぐるりと俺を取り囲んだ。 メガネは、心配そうに俺を見ている。 俺は、さっき貰ったビラの入ったカバンをメガネに向かって放り投げると、言った。 「それ、ちょっと預かっててくれ。直ぐに終わるからよ」 「んだと?!」 上級生の1人が俺に殴り掛かってきたが、カウンターパンチを一発みぞおちに喰らわしてやると、うめき声を上げて、しゃがみ込んだ。 「よくもやったな!」 残りの上級生らは一斉に殴り掛かって来た。 俺は上級生達の攻撃をかわすと、1人1人に蹴りを喰らわせ、地べたに叩き付けた。 「〜〜〜お、覚えてろよ、私服!」 上級生たちは、俺に捨て台詞を吐くと、ヨロヨロとその場を去って行った。 後には俺とメガネが残された。 「あ、ありがとうございます。これ、預かり物です」 「応、サンキュー。って、あんた入学式に行かなくて良いのか?」 「もう始まってます…」 メガネの言葉に俺は腕時計を見ると確かに始まる時間は過ぎていた。 「カツアゲされなきゃ間に合ったろうに、あんたも災難だったな」 「はい…あの」 「何だよ?」 「随分、軽いカバンですね」 「ああ。ビラ1枚しか入っていないからな」 「ビラって先輩達が配っていた、部活動の勧誘の紙ですか?」 「他に何があるんだよ?」 「今のは疑問ではなく、確認です」 メガネの切り返しに俺は内心感心しながらカバンを開けた。 さっき貰った料理部のビラに、火が点かないように気を付けながら、タバコに火を点ける。 「料理、お好きなんですか?」 「嫌いじゃねーな」 「一緒に見ても良いですか?」 「応、良いぜ。別に減るもんじゃなし」 入学式の間、当然出る予定だったメガネと、始めからバックれる予定だった俺は、並んで料理部のビラを見た。 ビラを見てる時、俺は不意に例の変な上級生のことを思い返していた。 今まで俺が睨んだら目を逸らすか、喧嘩になるかのどちらかだったのにな…。 名前も知らない上級生の笑顔を思い出し、俺は複雑な心境になった。 入学式が終わった頃だった。 「そろそろ教室へ戻りませんか?」 「いや、いい。あんただけでも戻れよ」 「解りました。さっきは、本当にありがとうございました」 メガネは会釈して去って行く。 そのメガネと同じクラスだと解るのは、翌日になってからだった。
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