382人が本棚に入れています
本棚に追加
「まずは、さっき話した精米歩合が50%以下、つまりお米の外側半分以上は削って雑味を無くしてるっていうことね。
次に発酵のときに『吟醸造り』って呼ばれる低温発酵をしてること。香りがより強く出るようになるの。ここまではいい?」
たくさん削って低温でじっくり醸す。手間がかかっている良いお酒だというのは分かった。
「最後に『純米』つまり米と、米に菌を繁殖させた麹だけで造ったお酒であること」
「え? 天沢さん、日本酒ってお米から作ってるんですよね? 他に何か入ることがあるんですか?」
安城の問いを待ってましたとばかりに、理香さんはスンッと鼻を鳴らした。
「醸造アルコールっていう濃いめの焼酎みたいなものを入れる日本酒もあるのよ」
「お酒を造るのにお酒を混ぜる……?」
あ、この話、前に理香さんから聞いたことある気がするぞ。
「久登君、混ぜる理由、覚えてる?」
「えっと、昔の目的は防腐ですよね。雑菌やカビにやられないように強めのアルコールを入れて。でも今は施設もしっかりしてるから、香りを立たせるために混ぜる、んでしたっけ」
正解、とさながら司会者のように、彼女は俺に人差し指を向ける。
「お酒の香りって、水よりもアルコールの方が溶けやすいからね。あとは、醸造アルコールがお米の糖分を抑えてくれるから、スッキリした味わいになるわね」
「そっか、必ずしも純米酒の方が良いってわけじゃないんですね」
「安城君の言う通り! お酒全般そうだけど、絶対的にこれが良いとか、高いお酒が良いってことはないの。自分にあったお酒を探すのが楽しいのよね。それじゃ、お待たせしました、飲んでみよう!」
お猪口に注がれた純米大吟醸に顔を近づける。ライチやナシを彷彿とさせる華やかな香りが鼻から抜けていった。
一口含むと、舌先から舌全体へ、どっしりとした旨味が、塊となって口に押し寄せる。しばらく味わっていると、薄めた水飴のような滑らかな甘さも顔を覗かせた。
「これすごい! スッキリしてる!」
右で安城が小さく叫ぶのも分かる。そのくらい飲みやすいし、鼻から抜ける息にも香りがついているような上品な味わいだった。
最初のコメントを投稿しよう!