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「ふふっ、こういうお酒はそれ自体が主役になるから、肴はこういうのが合うわよ」
彼女が指したのは、さっきテーブルに運ばれてきた、夏野菜の揚げ浸し。ナス、アスパラガス、ズッキーニ、パプリカ……色とりどりの野菜が素揚げされ、器の中でだしに浸かっている。
程よい薄味で、シャキシャキした歯応えが心地いい。みりんの甘めな風味が残っているうちに日本酒を飲むと、一瞬にして口の中に華やかさが広がり、彼女の言う通り、主役としての存在感を示した。
うん、やっぱり、お酒は詳しい人に解説を聞きながら飲むのが楽しいな。
「すごいですね、ほとんど原材料違わないのに、さっきのと全然味が違う」
「分かります。なんか、米と水だけなのに、こんなに違うんだって」
安城に同調していると、理香さんが「2人とも分かってるわね!」とヒールをトンッと鳴らした。
「日本酒飲むと、お酒って面白いなあって感じることが特に多いの。シンプルな原料なのに、ちょっと削り方や発酵の仕方を変えるだけでも仕上がりの味が全然違う。
小さな違いが、大きく未来を変えるの、君達みたいな若手と一緒でね。でも、きっとどれも美味しくなるわ」
一瞬目を見開いた後、安城は「ですね」と相好を崩した。それは彼女なりの、さっきの俺達のキャリアの話に対するアドバイスなのだろう。
「さて、お姉さんのイイ話も終わったところで!」
言いながら彼女は、後ろ髪に手を伸ばす。
まずはパールとビーズが装飾されたヘアゴムを取り、続いて前髪を留めていたネイビーの太めのアメピンを外した。
そして、お猪口に残っていた吟醸酒をスッと飲む。
「いこっか」
彼女の推理タイムが、いよいよ始まる。
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