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「そうなんですね。ってことは、ひょっとして彼s――」
「違う違う、そういうのじゃないの! 幼馴染!」
「そんなに秒速で否定されると悲しいんですけど」
sの音が聞こえるかどうかのタイミングで遮る理香さん。20代になるとなかなか聞かなくなる『幼馴染』の単語にポカンとしている彼女に、俺の方から小さく咳払いして補足する。
「家が近かったんで、幼稚園の頃からいつも一緒に遊んでもらってて。理香さんの方が3つ上なんで中学も高校も一緒じゃなかったんですけど、理香さんは大学から、俺は社会人から東京出てきたんで、その縁で一緒にこういうこと始めたんです」
「そうそう、だから誤解しないでね、えっと……」
「雨宮悠乃です。年齢は、天沢さんと一緒ですね」
「そっか、タメか!」
依頼人の彼女は、頷きながらはっきりと顔を上げた。
理香さんと同い年とはいえ、髪型が違うので大分印象が異なる。黒髪のショートは、前髪をしっかり作っていておでこがほとんど見えなかった。
なんとなくキビキビしているように見えるけど、少したれ目の顔立ちには、根っこの部分にある優しさが滲み出ていた。
服装はミントカラーのカットソーに裾の広がったベージュのワイドパンツ。大分暑いのにグレーのリネンジャケットを着ているのは、探偵に会うからという彼女なりの礼儀に違いない。
「それにしても、幼稚園からって、本当に長い付き合いなんですね」
「そうなのよ。ワタシも世話焼きだから、色々気になっちゃってね。久登君のYシャツのポケットの糸がほつれてることとか」
「え? あっ!」
胸元を見てみると、確かにポケットの口の部分を縫っていた白い糸がびろんと飛び出していた。
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