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「何かあったのよ……その箸置きを使う理由が……」
「……あ! 今度こそ謎の核心に触れましたよ、理香さん」
テーブルをトンッと掌で叩いた俺に、彼女は「あんまり期待してないけどね」という感情を込めたような優しい笑みを浮かべた。いやいや、今度こそリベンジだ。
「俺達はずっと、安城さんの話で、その5つの陶器のものを『箸置き』だと思って聞いてました。でも、よく考えてみれば、それが箸置きだなんて、どこにも証拠がないですよね」
「おお、斬新な意見ね」
「陶器製で小さかったらそれっぽく見えますからね。つまり、本当はその5種類のものは箸置きじゃなくて……」
「箸置きじゃなくて?」
「まあ、何なのかはイマイチ分かりませんが……」
推理の勢いの減速に合わせて、理香さんもがっくりと首を落とす。
「で、久登君、それが別の何かだったとして、なんで家に持ってきたの?」
「それはその……売るため……」
さっきと同じ帰結になってしまった俺に、安城がダメ押し。
「進藤さん、オレが見たのは多分箸置きでしたよ? 花火のやつとか、箸を置いても転がらないように真ん中が凹んでましたし」
ううん、途中までは良い線いってたと思うんだけど。
「ダメね、閃きが降りてこない感じ。ちょっと気分転換するわ。安城君、お酒頼むけど、食べたいものある?」
「えっと……じゃあこれを」
彼がオーダーして出てきたのは、「酔っ払い海老の唐揚げ」という一品だった。色鮮やかな川海老が皿のうえで雑魚寝している。
「安城さん、酔っ払い海老って何ですか?」
「いや、オレも知らなくて。勢いで頼んじゃいました」
苦笑する安城が「理香さん、分かりますか?」と目線を向けると、彼女は音声アシスタントのように立て板に水で答え始めた。
「もともとは中華料理ね。本来は生の海老を醤油と紹興酒に漬け込んで酔っ払わせるの。ただ、この店で生きたのは使ってないと思うから、川海老をお酒に漬けてそのまま揚げたって感じかな」
1つ食べてみる。サクサクの食感に続き、口の中は海老の味で満たされるけど、少し甘い感じのお酒の風味が鼻を抜けるのが新鮮な驚き。たまに居酒屋で食べる海老の唐揚げも、こんな風にアレンジすると趣が違ってくるものだ。
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