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「西畑が川海老好きだって話してたの思い出して、食べたくなっちゃったんですよね」
「川海老かあ、茨城とかも有名だけど、西の方に名産地って呼ばれる場所が多いわよね。滋賀の琵琶湖もそうだし、中国や四国でも……」
最後まで言わないまま、手を伸ばしていた彼女の箸が止まる。フリーズしたようになっているのは、高速演算処理をしているからだろうか。
やがて、手元に箸を戻し、片口からお猪口に半分くらい注ぐ。そして、風味を立たせるように、キュッとその盃を空にした。
音を立てて吸い込むように飲み干す、解けたときの、いつものサイン。
「理香さん、ひょっとして何か分かったんですか?」
「ん、なんとなく」
なんとなく、までは分かったことに、素直に驚いてしまう。
「久登君、お手柄かもね」
「俺ですか? 何かてがかりになるようなこと言いましたかね」
「ふふっ、それは秘密だけど」
イタズラっぽく笑う理香さん。かなり顔の赤くなっているその表情は、幼馴染とはいえなかなかの破壊力だ。
「ねえ安城君、西畑君の出身地って知ってる?」
「えっと……すみません。西の方だったと思いますけど……本人に聞きましょうか?」
「ううん、それだけ訊くのも変だし、そこは確認みたいなものだから大丈夫」
彼女は「あとは……」と、右手親指で唇を拭うように掻く。
「その箸置きってどこの100均で売ってたか聞いた?」
「いや、ちょっと分からないですね」
「まあそうよね」
そう言ったきり、しばらく考えた後、海老と同じように酔っ払っている探偵は片口に残ったお酒をお猪口に注いでいく。
「安城君、この謎、何日か預かってもいいかな。ひょっとしたら簡単に検証できることがあるかもしれないから、もう少し時間が欲しいの」
「はい、全然急ぎじゃないので大丈夫です!」
「じゃあ今日はあともう少し飲んだら解散しましょう。夏酒、他にあるか見てくるわね」
意気揚々と酒棚を見に行く理香さん。さらに2合を3人で飲み、安城は「よろしくお願いします!」と丁寧にお辞儀をして帰っていった。
「で、俺の推理の何がヒントになったの、リーちゃん」
「ダメだよキュー君。ワタシの考えを披露するまでの秘密なんだから」
「ちぇっ、ケチだな」
2人になったので、改まった呼び方も窮屈な敬語も撤廃。肩の力が抜けていくのが分かる。
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