【謎解き編】おかめとひょっとこ

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 木曜の定時上がり、俺は2日ぶりに同じ店の前に来た。前回より早い時間に来たため、外はまだ昼のように日が射している。  「こんな明るいうちから飲むなんて」という背徳感を喜びと一緒に胸にしまい、いそいそと立ち飲み屋の横の階段を昇る。 「いらっしゃいませ」  来店時間が早いため、客はまばら。「酒を飲んで50年」といった感じの老爺がゆっくりと日本酒を飲んでいるのが印象的。 「久登(ひさと)君、こっちこっち!」 「こんばんは、進藤さん!」  すでに理香さんと安城(あんじょう)は来ていたらしい。この前と同じテーブルで、今度は一番右、理香さんを挟む形で座る。  安城はグレーのスーツ、理香さんはモノトーンのストライプシャツに黒のプリーツスカートを履いていた。 「いやあ、なんかこの時間から日本酒居酒屋っていいですね、理香さん」 「ふふっ、『和酒バル』っていうと贅沢さもひとしおよ」 「確かに。良い響き!」  彼女の話に感心していると、片口の日本酒が2つ運ばれてきた。一緒に来たのは、前回と同じ、見ただけで食感が想像できる、川海老を使った酔っ払い海老の唐揚げ。 「まずは乾杯ね。お疲れ様です!」 「お、お疲れ様です!」  これから推理を披露するとは思えない、威勢のいい掛け声をかける理香さん。  飲んだ瞬間、鼻に抜ける酸味が爽やか。全体の味わいは軽くて、後味も残らないキレの良いタイプだから、いつまでも飲んでいられるお酒だ。 「って、あの、理香さん、なんか顔赤くありませんか?」 「ああ、0次会で何合か飲みながら自分の推理が間違ってないか整理してた」  自分の推理を整理するために日本酒を飲む人がいるだろうか。  ここにいるのだ。おでこを出して、満面の笑みで盃を煽っている幼馴染が。
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