382人が本棚に入れています
本棚に追加
木曜の定時上がり、俺は2日ぶりに同じ店の前に来た。前回より早い時間に来たため、外はまだ昼のように日が射している。
「こんな明るいうちから飲むなんて」という背徳感を喜びと一緒に胸にしまい、いそいそと立ち飲み屋の横の階段を昇る。
「いらっしゃいませ」
来店時間が早いため、客はまばら。「酒を飲んで50年」といった感じの老爺がゆっくりと日本酒を飲んでいるのが印象的。
「久登君、こっちこっち!」
「こんばんは、進藤さん!」
すでに理香さんと安城は来ていたらしい。この前と同じテーブルで、今度は一番右、理香さんを挟む形で座る。
安城はグレーのスーツ、理香さんはモノトーンのストライプシャツに黒のプリーツスカートを履いていた。
「いやあ、なんかこの時間から日本酒居酒屋っていいですね、理香さん」
「ふふっ、『和酒バル』っていうと贅沢さもひとしおよ」
「確かに。良い響き!」
彼女の話に感心していると、片口の日本酒が2つ運ばれてきた。一緒に来たのは、前回と同じ、見ただけで食感が想像できる、川海老を使った酔っ払い海老の唐揚げ。
「まずは乾杯ね。お疲れ様です!」
「お、お疲れ様です!」
これから推理を披露するとは思えない、威勢のいい掛け声をかける理香さん。
飲んだ瞬間、鼻に抜ける酸味が爽やか。全体の味わいは軽くて、後味も残らないキレの良いタイプだから、いつまでも飲んでいられるお酒だ。
「って、あの、理香さん、なんか顔赤くありませんか?」
「ああ、0次会で何合か飲みながら自分の推理が間違ってないか整理してた」
自分の推理を整理するために日本酒を飲む人がいるだろうか。
ここにいるのだ。おでこを出して、満面の笑みで盃を煽っている幼馴染が。
最初のコメントを投稿しよう!