382人が本棚に入れています
本棚に追加
「謎、解けたと思う。とはいっても、真実は西畑君しか知らないわけだし、完全な正解かは分からないから、そのつもりで聞いて」
理香さんは、一言断りを入れた後、アシンメトリーのグレーのバレッタを外して髪をおろす。
コーヒー豆のようなダークブラウンの髪がファサッと揺れ、レモンのような清涼感のあるハーバルな香りが舞った。
「まず結論を言うわね」
そう言った彼女は、不意に自分のカバンを漁り始めた。逃げ込んだリスでも探すかのようにガサガサと中を探り、やがて大きさの異なる3つの陶器の置物を取り出した。
クッキー程の大きさのおかめ、子どもの手サイズのひょっとこ、一番大きい天狗は出っ張っている長い鼻が特徴的。
「あ、これ! 西畑が持ってたヤツです!」
「ふふっ、そうよね」
「あれ、でも天狗は無かったような……」
首を捻っている安城の横で、彼女はもう一つ別のものを取り出した。おかめよりも小さい独楽のようなその陶器は周囲が六面になっていて、おかめ、ひょっとこ、天狗の絵が描かれている。
「天沢さん、これって何――」
「はい、じゃあ、回します!」
安城の言葉を遮り、彼女はテーブルの上で独楽を勢いよく回し始める。そして、俺達2人にだけ聞こえるような控えめな声で歌い始めた。
「ベロベロのー 神様はー 正直なー 神様よ 呑兵衛の方へと おもむきゃれー ええ おもむきゃれー」
突然の奇行にポカンとしつつ、その回っている独楽を見る。やがてその独楽は回転を緩め、ひょっとこの面を出して止まった。
すると隣の探偵は、おもむろにひょっとこの箸置きを裏返し、空洞の部分にお酒を注ぐ。なぜかひょっとこの尖った口の部分を指で押さえていた。
「じゃあ久登君、持って」
「え?」
貰いながら、「あ、口の部分押さえてね!」と注意される。その理由は、すぐに分かった。
「わっ、えっ、漏れる!」
口のところに穴が開いているらしい。酒がジョロロ……と出るのを、慌てて人差し指で押さえた。
「……で、これ持ってどうするんですか?」
「どうするって、飲むのよ」
最初のコメントを投稿しよう!