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当たり前じゃない、と言わんばかりにキョトンとする理香さん。そしてすぐに、綻ばせた口元にワクワク感を湛えた。
「理香さん、話が全く見えないんですけど……なんで俺がこれを飲むんですか?」
「だってほら、独楽の軸を見て。久登君を指してるでしょ?」
机の上の独楽を指す理香さん。確かに、上部にある軸が俺の方を向いて止まっていた。
「あ、そういうことですね! 軸が向いている人が、出た面の器でお酒を飲む」
「安城君、ご名答。さあ、久登君、飲んで飲んで」
「分かりましたよ」
顔を近づけ、グッと日本酒を飲む。始めは啜るように飲まないと、口の端から零れてしまいそうでなかなか難しい。
「よし、じゃあもう1回だけやってみましょ」
完全に彼女のペースのまま、再度あの歌が始まる。
「ベロベロのー 神様はー 正直なー 神様よ 呑兵衛の方へと おもむきゃれー ええ おもむきゃれー」
今度は、軸は安城の方を向き、おかめの面が出た。
「おお、一番小さいヤツで良かった」
「安城君、顔を下に向けて置くなんてレディーに失礼だからね。ちゃんと器を干してから顔を表にするのよ」
「うわ、そんなルールなんですね。分かりました、頂きます!」
そう言うと、安城も片口から日本酒を注ぎ、小さい器をゆっくりと傾けた。
「理香さん、つまりこれって……」
俺が言おうとした答えを予期しているかのように、彼女はニッと微笑んでみせた。
「可杯っていう遊びよ。西畑君が持ってきたのは箸置きじゃない、この酒器なの」
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