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まったりと、残りの日本酒を飲む。窓の外で墨塗りにしたような夜が広がっているせいもあるのか、彼女とフラットに話せるこの時間が、ものすごくリラックスできる。
「可杯、やる?」
「2人でやったらただの飲ませ合いだろ」
全然リラックスできなかった。なんて怖い提案をするんだ。
まったく、普通にしていればすごく綺麗なのに。
「お座敷遊びかあ。ワタシもなあ、舞妓さんみたいに着飾って綺麗になったらやってみたいなあ、へへっ」
「……リーちゃんはそのままで十分だよ」
「えっ…………」
思わず本音を話してしまった。照れ隠しで彼女に目を合わせていないが、返事が返ってこないとそれはそれで気まずくなる。
仕方ない、ここは笑いに変えて収めるか。
「ちょっとリーちゃん! スルーって困るんですけ――」
ツッコミを最後まで言い切ることはできなかった。
明らかに酒だけではない理由で、理香さんは熟れた桃のように頬を真っ赤にしていた。
「えっ、あっ、うん、あり……がと……」
「……いや、その……どうしたしまして……」
あんまりこういうのは慣れてないらしい。とはいえ、こっちだってまだまだ社会人2年目の24歳、こんな状態になっている3つ上の女性をリードできるようなスキルはなく、なんなら俺も同じように照れてしまう。
「よ、よし、キュー君、決めた! やっぱり可杯やろう!」
「そ、そうだな。やろうやろう! リーちゃんから振っていいよ!」
慌てて独楽を用意する。うん、しばらくは、こういう関係でもいいかな。
***
今回の事件の後日談。
翌月、安城から「この前はありがとうございました!」とメッセージが写真付きで来た。
写真には、広めのリビングで男子5人が思いっきりはしゃいでいる姿。彼が肩を組んでいるのが、西畑君だろう。カメラに向かって突き出すように、天狗の杯を握っている。
床には酒瓶が転がっていた。これは相当飲んでるな。ワインボトルもあるぞ、ひどい宅飲み、ひどく楽しい飲み会だ。
バカできる友情は、若いうちに育んでおいた方が良いのだろう。
磨けば磨くほど良い味になる。純米大吟醸のようなものだ。
<2杯目 了>
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