【挨拶編】クラフトな1杯

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「いやあ、夏はやっぱりレモンサワーね!」 「リーちゃん、この前は、夏は絶対にハイボールって言ってたけど」 「そこはまあほら、人間は日々変化する生き物だから!」  カウンターで隣に座る理香さんが、黒いマドラーで氷をトンッとつついた。  週末には8月に突入するという7月末の木曜日、「良い店を見つけたから行こう!」という理香さんの誘いを受けて、お互いの職場の最寄り駅からそれぞれ20分くらいの駅に来た。  新幹線も乗り入れている日本有数の大きな駅は、昔ながらの安居酒屋や立ち飲み屋も多い一方で新しいスタイリッシュなバルも増えており、群雄割拠の様相を呈している。  今回やってきたのは、レモンサワー専門店。レモンとお酒の入ったグラスジャーがレジ奥に整然と並ぶ姿は壮観ですらある。  10席ほどのカウンターと、2名席のテーブルが4つあるだけの、団体には向かないこじんまりとしたお店。お通しも皮まで食べられるレモンで、店の拘りが窺えた。 「キュー君、そっちの塩レモンサワー、どう?」 「かなり塩が効いてて面白いよ。そっちのドライレモンサワーは?」 「清涼感あって美味しい! ワタシはジンベースが一番好きかも。追いレモンして味変(あじへん)できるのも良いわね、肉とも合うし!」  ベースのお酒を選べるのがこの店の特徴。深みのある焼酎、クリアなウォッカ、そして爽やかなジンからどれかを選ぶと、レモンサワーと小皿に入ったくし型レモンが運ばれてくる。  これを好きなタイミングで「追いレモン」して、更にレモン感をアップすることができるのだ。    ちなみに注文した料理は、さっぱり風味が堪らないレモン入りピクルスと、豚肩ロースの西京焼き。  濃い味噌味で口の中がしょっぱくなったときにスッとレモンサワーを入れると、一気にリセットされて、また肉を一切れ食べたくなる。この繰り返しで、幾らでも胃の中に入ってしまいそうだ。
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