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「それで、お酒は何?」
「ビールだって」
「よし、場所移動しよ!」
いそいそとバッグにスマホをしまう彼女。
「リーちゃんさ、別にここでレモンサワー飲みながらでもいいんだよ」
「いやいや、キュー君、分かってないわね。同じ酒を飲むから、依頼人の話が良い肴になるんじゃない!」
「ううん、そういうものなのかなあ」
それにね、とすまし顔で人差し指を立てる探偵。額が丸見えて、眉もピッと上がっているのがよく分かる。
「ビールの話聞きながらレモンサワー飲んだら味が混ざっちゃうでしょ? ちゃんぽん飲みは危険だし」
「ぶはっ! 何それ!」
突然の変な回答に、堪らず吹き出してしまった。どうやら彼女は耳からもお酒を飲むらしい。
「行きたかった店があるから、そこに行きましょ。相手にも店の住所教えてくれる?」
「分かった。じゃあ急いで残り飲んじゃおう」
「あ、待って。もう1杯だけ、この黒糖ジンジャーレモンサワーっていうの飲んでみたい」
「うははっ、なんとなくリーちゃんはそう言うと思ったよ」
彼女が如何にお酒が好きか改めて実感しながら、俺は店員さんを呼んだ。
「んっと、地図によると……あそこの大通りを渡る感じだな」
店を出て数分歩く。眠らない街東京、極彩色のネオンが煌々と通りを照らし、俺のストライプの白Yシャツを染めていく。
「はっきりしない天気ね」
「女子はカーディガンで調整できるの、便利だよな」
午前はピーカンで熱中症の心配すらある夏本番だったのに、午後のゲリラ豪雨を機に一気に気温が下がり、強風も来たせいで、いつもより着込んでいる女性も多く見かける。
理香さんもご多聞に漏れず、OLらしいグレーのトップスと白のプリーツスカートの上に、ベージュに白ドットの薄手のカーディガンを羽織っていた。
「お、ここか。こんなところに良い感じの飲み屋があるなんてね」
「ここは雑多な街だからね」
目的の店は、歓楽街、所謂「夜の店」の通りにあった。
呼び込みは規制されているので、露出の多い恰好をした女性が店の連なるビルの前に立っていて、理香さんと一緒だと余計に目のやり場に困る。
1階から4階まですべて飲み屋となっているビルの中で、目当ての店は最上階。
「いらっしゃいませー!」
カントリーミュージックが流れる店で、明るい声で店員さんが出迎えてくれた。
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