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ライトブラウンの正方形テーブルに、理香さんの髪のようなダークウッド色の椅子が4つ置かれているのがテーブル席1セット。これが店内に所狭しと配置されている。
入口には酒樽、キッチンの棚には船の模型、天井から壁まで張られた三角旗のガーランドと、ごちゃごちゃした内観だったけど、むしろ賑やかさが強調されて楽しい。
「こちらへどうぞ!」
依頼人の話を聞きやすいよう、端の席を希望し、2人とも入口が見えるように直角に並んで座った。
「依頼人、割とすぐに着きそうだよ」
「そか、じゃあ注文は待っとこ」
ビニール製のメニューブックを開く。クラフトビールが有名な店らしい。
「リーちゃん、クラフトビールって何だっけ? 海外のビール? あ、でも、ここには日本製もあるな」
「もう、キュー君、そのくらいは一般常識だよ!」
カラカラと笑いながら、理香さんはメニューの中のビールをすらっと長い指で差した。
「簡単に言えば、大きなメーカーとかじゃない小さな醸造所が造る個性的なビールのことよ。クラフトって『職人の技』って意味もあるでしょ?」
「そっか、確かに。熟練の職人のことクラフトマンって言うもんな」
国とか製法の話じゃないんだな。
「日本では昔はよく『地ビール』って呼んだりしたけどね」
「あ、『地ビール』って旅行先でよく聞く」
そうそう、と頷く彼女はしかし、ちょっと苦い顔をしている。
「以前は国内では、大量生産できないとビール製造の許可はおりなかったんだけど、規制緩和で小規模でもオッケーになったの。で、各地で町おこしのためにたくさん地ビールが造られたのよ。
でもキュー君、想像してみて。そんな、技術もない状態で急ごしらえで造られたビールが美味しいと思う?」
「いや、あんまり……」
町おこしありきで進んでるだろうしな……ありがちなお土産って感じだよな……。
「その通り! だから地ビールブームはそんなに続かなかった。でも、一部の醸造所は、地ビールのブームが終わった後も技術を磨いて、世界でも評価されるクオリティーのものを造れるようになった。
で、最近の海外クラフトビールの人気も追い風になって、日本の地ビールは『クラフトビール』に生まれ変わってまたブームが来てるのよ」
「へえ、日本のビールにも歴史あり、だな」
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