【挨拶編】アネゴ探偵、天沢理香

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「理香さん、なんで分かったの?」 「SNSにもほとんど書いてなかったはずですけど……」 「ああ、そんなに難しくないわ。それよ、それ」  彼女は雨宮悠乃の胸を指す。俺もその、女性の平均以上と言える膨らみを見遣ったものの、いけないことをしている気がしてすぐに視線を外した。 「悠乃さん、久登君のポケットの糸を切るためにハサミを探すとき、まず胸元や腰の方触ったでしょ。ってことはいつもはあの場所にハサミがあるってことよ。看護師はサージカルテープとか切るのに使うから、いつも持ち歩いてるしね」  さっき、ハサミを探してトトンとポケットを叩いていたけど、あの一瞬の動きからそんなところまで読み取ったのか。 「それに、頻繁のこと、『頻回』って言ってたでしょ。あれは医療独特の言葉よね。『頻回の頭痛』とか、ナースの漫画で読んだことあるから。だから、多分看護師だろうなあって」  種明かしを聞いた彼女は、目を丸くして小さく拍手をしていた。自分が当てられる身だったら、やはり同じように感動するだろう。 「すごいです、本当に探偵みたいですね」 「えへへ、ありがとう。大好きなお酒のおかげよ」  冗談めかして、彼女はピースして見せた。  理香さんは単に酔うのが好きなのではなく、酒の味を楽しむのが好きなのだ。知識も豊富で、酒全般については並大抵の人なら舌を巻くだろう。  そして、この酒好きの趣味と、「酔ってくると妙に頭が冴える」という特性を活かして始めたのが、この謎解き活動、通称「リカーミステリ・オフィス」。名前とかかっててピッタリ、と理香さんも気に入っているらしい。  日常で気になった謎があるときは俺がSNSで依頼を受け付け、受けられそうなものは彼女と引き合わせる。  依頼に関する条件は2つ。都内近郊の依頼しか受けないのも、きっとお気に入りの店や行ってみたかった店でお酒を飲むためだ。  ちなみに相談料は基本的に無料。彼女曰く、お酒を飲みながらそのお酒にまつわる謎を解くのは「とびっきりの肴」なので、それで報酬としては十分らしい。  それに、彼女にとってこれはビジネスではなく、チャレンジなのだ。「人を幸せにするお酒」を目指す、という彼女自身が決めた目標への挑戦。
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