カメレオンマスク

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 ヤクザ映画を観たあと、肩で風を切って歩きたくなるという。ド迫力のアクションシーンを見たせいか、私も無意識のうちに車の運転が荒くなっていた。 「レインボービーム!」  大志も後部座席で飛び跳ね、カメレオンマスクの必殺技をしきりに繰り出している。鑑賞後、売店で買ってやったキラキラの光線が出るおもちゃである。本当は大志が欲しがったというよりも、むしろ私の方が名残惜しくなってしまい、カメレオンマスクのグッズ一式を買い揃えたのだった。……当然妻には内緒である。 「大志はカメレオンマスクみたいなヒーローが好きなのかい?」  周囲の車に手当たり次第撃ち続けている大志に尋ねてみた。迷惑ではないかと頭によぎったが、さほど強い光でもないので目を瞑ることにした。本当は親バカなので叱れないだけである。 「うん! 当たり前じゃん!」  まさしく当たり前の質問だったが、感動を最愛の息子と共感したかっただけである。しかし同時に私に良からぬ感情が鎌首をもたげてきた。それはいい歳して、架空のヒーローなんかに対する嫉妬であった。ゴクリと唾を飲んでから私は柄にもないことを口にした。 「じゃあ、パパがカメレオンマスクみたいなヒーローだったら大志は嬉しいかい?」  大志は一瞬キョトンとした表情を見せたが、言葉を咀嚼(そしゃく)すると一変して歓喜の表情へと変わった。 「えっ! なれるの!? パパすごいよ! なってなってなって!」  興奮してますます激しく跳ねだした大志をバックミラーで眺めながら、私には漠然とある考えが浮かんでいた。
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