29人が本棚に入れています
本棚に追加
ヤクザ映画を観たあと、肩で風を切って歩きたくなるという。ド迫力のアクションシーンを見たせいか、私も無意識のうちに車の運転が荒くなっていた。
「レインボービーム!」
大志も後部座席で飛び跳ね、カメレオンマスクの必殺技をしきりに繰り出している。鑑賞後、売店で買ってやったキラキラの光線が出るおもちゃである。本当は大志が欲しがったというよりも、むしろ私の方が名残惜しくなってしまい、カメレオンマスクのグッズ一式を買い揃えたのだった。……当然妻には内緒である。
「大志はカメレオンマスクみたいなヒーローが好きなのかい?」
周囲の車に手当たり次第撃ち続けている大志に尋ねてみた。迷惑ではないかと頭によぎったが、さほど強い光でもないので目を瞑ることにした。本当は親バカなので叱れないだけである。
「うん! 当たり前じゃん!」
まさしく当たり前の質問だったが、感動を最愛の息子と共感したかっただけである。しかし同時に私に良からぬ感情が鎌首をもたげてきた。それはいい歳して、架空のヒーローなんかに対する嫉妬であった。ゴクリと唾を飲んでから私は柄にもないことを口にした。
「じゃあ、パパがカメレオンマスクみたいなヒーローだったら大志は嬉しいかい?」
大志は一瞬キョトンとした表情を見せたが、言葉を咀嚼すると一変して歓喜の表情へと変わった。
「えっ! なれるの!? パパすごいよ! なってなってなって!」
興奮してますます激しく跳ねだした大志をバックミラーで眺めながら、私には漠然とある考えが浮かんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!