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翌日、映画のパンフレットと白紙を前にして、私は腕を組み、険しい顔で考え込んでいた。既に骨の折れる仕事はほとんどない。特に会社に貢献したわけではないのだが、勤続年数は誰にも負けていない。その甲斐あってか現在部長職に留まっている。小さな部署だが、もっともこれ以上の昇進は見込めそうにないので、ほどほどの待遇に満足している。
「ああっ! カメレオンマスク!」
黙考していた私は背後から声をかけられて飛び上がった。振り返ると事務の宏美ちゃんが目を輝かせて立っており、私は慌ててパンフレットを引き出しにしまった。
「隠さなくたっていいじゃないですか! ……部長、カメレオンマスク好きだったんですね」
宏美ちゃんはニヤニヤと意地悪な笑みを顔に浮かべている。
「いや、子供がだね……」
そう言う私は明らかに目が泳いでいたことだろう。しかし宏美ちゃんは気に留めた様子はなく、勝手にカメレオンマスクの魅力について語り始めた。
「ああ、部長子供思いですもんね。で、どうでした? 憧れますよね? そうそう、これ知ってますか?」
宏美ちゃんはカメレオンマスクファンらしく、映画では語られなかった裏話なども話してくれた。彼女から聞き出した情報をもとに、私の現実でのヒーロー像が固まっていき、アイデアを用紙に書き留めていった。
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