カメレオンマスク

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 正義のヒーローになろうとして気づいたことがある。それは事件がそう都合よく起こらないことだ。たとえ誰かが助けを求めても、駆け付けるのはヒーローではなく警察だ。所詮ヒーローは空想上の産物でしかないのかと私はため息をついた。 「どうしたの、あなた」  ヒーロー計画の行き詰まりを嘆いていたところ、見兼ねた妻が話しかけてきた。 「仕事で嫌なことでもあったの? はいこれ、今度幼稚園で参観があるわよ」  渡されたプリントに目を通すと、父親参観とある。 「悩んでるのはあなたらしくないわよ。大志の様子でも見て元気を出しなさい」  妻は私に気を使ったのだろうが、私には懸念事項が一つ増えただけだった。
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