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私はここ数日、デスクに肘をついて参観日の余韻に耽っている。仕事はかなり適当だが、まあ何とかなるだろう。そんな風にポケーッとしている私に、宏美ちゃんがため息をついてお茶を運んで来た。
「どうしたの?」
宏美ちゃんが落ち込んでいるのは珍しく、尋ねざるをえなかった。宏美ちゃんはしばし逡巡していたが、意を決して悩みを打ち明けてくれた。
「実は私、最近誰かに付き纏われてて。よく視線を感じるんです。今も……」
衝撃の告白に私は返す言葉が思いつかなかった。
「まさか」
私はオフィスを見回した。しかし当然怪しい人物は見当たらない。
「まあでも、本当に心配なら警察に相談してみなよ」
そう言ってからハッとした。今こそヒーローの出番だったのではないか。自らチャンスを警察に譲ってどうするのか。しかし宏美ちゃんは首を振った。
「相談してみたんですけど、実際に被害がないと警察は動けないって……」
それから二人とも黙り込んでしまったのだが、そこへ部下の高木が仕事の報告に割り込んできた。
「部長、この間の件でちょっとよろしいでしょうか?」
宏美ちゃんは遠慮してそそくさと立ち去り、私は手渡された資料を眺めていた。不明な点を尋ねようと顔を上げると、高木の視線は宏美ちゃんを追いかけていた。
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