10人が本棚に入れています
本棚に追加
「森谷さん、それ、本気で言ってんの?」
「えっと……」
射るような目つきで見据えられて、僕は返す言葉を失っていた。
「森谷さんはいつも子供達に、勉強して将来立派な大人になれって言ってるでしょ? 勉強した結果が、仕事のために自分のやりたいことを犠牲にする生活なの?」
目の前の岩上先生の怒声が、放課後に話した男子生徒の声と重なって聞こえる。
『気ままに過ごせるのって、子供のうちだけでしょ?』
受け持っている生徒たち一人ひとりの顔を思い浮かべ、将来を想像する。
僕は、あの子たちにどうなってほしい?
勉強して、進学して、就職して。
その先、どういう生活を送ってほしい?
「ごめん、つい熱くなっちゃった」
岩上先生が、カチッとスイッチを切り替えるように怒りの表情を収め、ワインを飲み干した。
「次なに飲もっかなー、森谷さんはどうする?」
「えっと、コークハイにします」
そう言って僕は、グラスに半分ほど残ったハイボールに口をつける。
今しがた岩上先生の言葉に焼かれた僕の体内を、強い炭酸がヒリヒリと突き刺した。
最初のコメントを投稿しよう!