いつか今になる将来を、僕は歌う。

10/14
前へ
/14ページ
次へ
「森谷さん、それ、本気で言ってんの?」 「えっと……」  射るような目つきで見据えられて、僕は返す言葉を失っていた。 「森谷さんはいつも子供達に、勉強して将来立派な大人になれって言ってるでしょ? 勉強した結果が、仕事のために自分のやりたいことを犠牲にする生活なの?」  目の前の岩上先生の怒声が、放課後に話した男子生徒の声と重なって聞こえる。 『気ままに過ごせるのって、子供のうちだけでしょ?』  受け持っている生徒たち一人ひとりの顔を思い浮かべ、将来を想像する。     僕は、あの子たちにどうなってほしい?  勉強して、進学して、就職して。  その先、どういう生活を送ってほしい? 「ごめん、つい熱くなっちゃった」  岩上先生が、カチッとスイッチを切り替えるように怒りの表情を収め、ワインを飲み干した。 「次なに飲もっかなー、森谷さんはどうする?」 「えっと、コークハイにします」  そう言って僕は、グラスに半分ほど残ったハイボールに口をつける。  今しがた岩上先生の言葉に焼かれた僕の体内を、強い炭酸がヒリヒリと突き刺した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加